海外学術調査フォーラム

分科会2 農業経済学を事例として

座長鈴木 紀(国立民族学博物館)
曽我 亨(弘前大学人文社会科学部)
講師藤田 幸一(京都大学東南アジア地域研究研究所)

 午後の分科会2「農業経済学を事例として」は、午前中のワークショップに引き続いて京都大学東南アジア地域研究研究所の藤田幸一氏を講師として迎え、国立民族学博物館の鈴木紀氏、弘前大学の曽我亨氏を座長として、参加者23名で開催された。

 講師の藤田氏は午前中のワークショップで一地域を超えた地域研究の意義、および藤田氏が取り組んでいる南アジア・東南アジア両地域の研究について、南アジア研究者が東南アジアに調査に行くことは珍しくないが、逆のケースは稀であるという指摘をしていた。この点について参加者からは、1) 地域研究の中でも研究者が採用するディシプリンによって、他地域研究に発展させる上での容易さに違いはあるか、2) 南アジア研究者と東南アジア研究者でそのような差がでるのはなぜか、といった質問が出された。

 藤田氏はこれらの質問に対して、1) 地域研究の中でも経済学をディシプリンにしている研究者は、他地域の研究にとりかかるのが容易である、それに対して言語の知識を必要とする場合、他地域の研究にとりかかるのは難しい。2) 一つに日本からの距離の問題があり、もともと日本からより遠い南アジアを研究している研究者は、より近い東南アジアに行きやすいという理由がある、と回答した。そのうえで、藤田氏が近年取り組んでいるゾミア研究のような、意図的に複数地域を扱う共同研究を行うことの重要性を説いた。また、一つのフィールドを様々な視点から見るというメリットも得られることも、共同研究を行う意義としてあげられる。

 また、異分野間の研究者による共同研究は、途中で話は弾むものの、結果を出す段になってまとまらないという問題も指摘された。このような問題に対して、まずは「〇〇問題解決ツアー」という形で複数の研究者が現地調査に向かうのが良いのではないか、という意見が会場から出された。その他超分野型の研究を行うとして、外部資金に申請する場合、評価をする側も一分野を超えた研究に対して理解を示せるかというコメントも出た。

 大きな話題は続いて教育へと移った。大学院に入ったばかりの院生が複数地域を扱ったり、インターディシプリンな研究手法を採用すると、かえって論文が書けなくなってしまう懸念もある。院生は長期的には複数地域・インターディシプリンな研究に発展させることを意識しつつ、まずは一地域を一つのディシプリンで分析させるのが良いのではないかという意見が出た一方で、研究者としてのキャリアを進むのではなく、社会人の道へと進む院生に対しては、インターディシプリンな大学院教育は有用なのではないかという意見もあった。

 個々の問題について明確な解答が出されたわけではないものの、参加者が活発に意見を交換することで、互いの理解を深めることができた。


(報告: 小倉 智史(AA研))