海外学術調査フォーラム

分科会1 フィールド医学を事例として

座長髙樋 さち子(秋田大学教育文化学部)
蓮井 和久(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科)
講師坂本 龍太(京都大学東南アジア地域研究研究所)

 本分科会では、午前中の海外学術調査ワークショップ「フィールドサイエンスと共同研究の可能性」における坂本龍太氏(京都大学東南アジア地域研究研究所)の講演「フィールド医学と海外調査―海外の共同研究の経験から」を事例として、海外学術調査に関する議論が行われた。午前中の講演では、疾病、老化のありさまを、自然環境、文化背景との関係でもう一度捉えなおそうとする研究領域であるフィールド医学の観点から、ブータンにおける地域高齢者医療に関する話題提供があった。

 本分科会には、講師1名、座長2名、書記1名を含む計20名が参加した。多様な分野とフィールドを専門とする研究者が参加した。参加者の間で簡単な自己紹介を行ったのち、フィールド医学を事例として、海外学術調査に関する議論が行われた。具体的には、ブータンにおける共同研究のカウンターパート、フィールド医学と他分野の共同研究、医学に関する国家間での法制度の相違、資料・サンプルの国際的持ち出し、海外で研究する際の医療の倫理指針、国際共同研究強化(B)などに関する議論がなされた。

 カウンターパートに関しては、ブータンにおけるフィールド医学では、保健省、大学、村人との共同研究が必要になる。他分野との共同研究では、ブータンの農村から都市部への出稼ぎ問題に対し、農業の専門家との共同研究がなされている。法制度の相違について、日本の医師免許の有効性が国家によって異なる。ブータンの場合、日本の医師免許と必要書類を提出することでブータンの仮の医師免許が発行される。一方、ザンビアでは日本の医師免許は無効であり、現地で新たに免許を取得する必要がある。資料・サンプルの国際的持ち出しについて、サンプルの質によって事情が異なるが、基本的に相手国の保健省からの許可を取得する必要がある。ただし、中国からの持ち出しは中華人民共和国人類遺伝資源管理条例により厳しい制限がなされている。また、パンデミックなインフルエンザの国際的持ち出しについては、WHOが作成した共通のプラットフォームがある。ザンビアでは、生理データを取得するための機材の持ち込みはすべてレジストレーションする必要がある。倫理指針に関して、インドネシアにおける看護師に対するインタビューとアンケートでは、保健省部長と病院の許可と同意を取ることが望ましい。ザンビアの場合、倫理申請書へのサインが義務付けられている。最後に、国際共同研究強化(B)について、フィールドサイエンス側のニーズを学振にフィードバックしていく必要があることが議論された。


(報告: 倉部 慶太(AA研))