海外学術調査フォーラム
2018(平成30)年度 海外学術調査フェスタ 出展者一覧
生態知・伝統知の地域間比較と教育への応用に関する共同研究
研究代表者:飯塚宜子(京都大学/ マナラボ)
研究分担者:大石高典(東京外国語大学)、島村一平(滋賀県立大学)、山口未花子(岐阜大学)
共同研究者:関雄二(国立民族学博物館)、小林舞(総合地球環境学研究所)、
川那辺香乃(大阪音楽大学/ マナラボ)、長岡慎介(京都大学)、坂本龍太(京都大学)
発表者:飯塚宜子(京都大学)、大石高典(東京外国語大学)
生態知や伝統知は地域社会で構築・継承されてきた。しかし今日それらのグローバルな再検討と価値共有が必要ではないか。本研究では、モンゴル遊牧民、カナダ先住民、中部アフリカ狩猟採集民など異なる研究対象を持つ研究者が調査地の相互訪問を行う。参与観察と対話を通じ、生態知・伝統知を非言語的身体知などを手がかりに抽象化し、具体的だが普遍的な感覚価値として捉え直す。個体が生きる現場で力を発揮するフィールドの知を近代教育に取り込む最善の方法論は何か。パフォーマンス・エスノグラフィーなどの枠組みで実験的な場を設え探索する。この試みを、前近代社会と産業社会を架橋し、現代世界における教育を脱構築する手がかりとしたい。
経費名:日本学術振興会科学研究費基盤(C)「持続可能性を基軸とした異生態系比較による「地域の知」モジュール化と公教育への応用」、京都府環境部「大学連携環境学習実施事業」
関連URL:https://kaken.nii.ac.jp/grant/KAKENHI-PROJECT-17K02013/
チャをめぐる生産者の負債関係―ミャンマーの茶生産を事例に
研究代表者:生駒美樹(東京外国語大学AA研ジュニアフェロー)
本研究の目的は、チャをめぐる生産者の「負債」関係を明らかにすることである。具体的には、2012年から2014年の現地調査に基づき、ミャンマー最大の茶産地シャン州ナムサン郡で茶生産に従事する少数民族パラウン人(モン・クメール系)を事例として取り上げる。チャという植物とともに生きる農家にとって、収穫適期にチャ摘みの際の労働力を確保することが非常に重要な課題である。本発表では、チャ摘み制度と負債帳簿の分析から、労働力を確保するために「負債」がいかに用いられているのか明らかにする。またその「負債」が、貨幣価値に数量化されているにもかかわらず清算できない理由を考察する。
経費名:日本学術振興会特別研究員DC1 特別研究員奨励費(2011.4-2014.3)
ザンビアにおける鉛汚染のメカニズムの解明と健康・経済リスク評価手法および予防・修復技術の開発【KAbwe Mine Pollution Amelioration Initiative ~KAMPAI Project~】
研究代表者:石塚真由美(北海道大学大学院獣医学研究院)
発表者:中山翔太(北海道大学大学院獣医学研究院)
発表者らは、2008年よりザンビア共和国Kabwe市における鉛汚染問題に関わる研究を実施し、家畜、イヌ、野生ラットなどの動物における血中・臓器中の高濃度の鉛蓄積を解明した。さらに、鉱床周辺に住む子供300名の血中鉛濃度は、対象のほぼ全員が基準値である5 µg/dLを超過する深刻な状況であることを解明した。この研究結果を受けて、特に子供における治療や地域の環境汚染レベルの低減を目的としたプロジェクト(KAbwe Mine Pollution Amelioration Initiative ~KAMPAI Project~)を2016年より実施している。本発表では当該プロジェクトを紹介する。
経費名:文科省、日本学術振興会、JST/JICA SATREPS
関連URL:http://satreps-kampai.vetmed.hokudai.ac.jp/
気候変動及び社会経済シナリオを考慮した広域河川氾濫リスク予測モデル開発
研究代表者:郭 栄珠(PWRI-ICHARM-UNESCO)
研究分担者/共同研究者:朴 鍾杰(東京情報大) 近藤昭彦(千葉大)
アジア主要河川(1km格子の約10 万km2 以上の流域)を対象に、超高解像度大気モデルMRI-AGCM3.2S(20km格子)の複数出力による25年間の現在気候(1985~2004)を基に、将来気候(2075~2099;RCP8.5シナリオ)条件下で、50年確率年最大河川流量の浸水深と将来社会経済条件(世界共通の社会経済シナリオのSSP5:緩和策の負担が高い)を考慮した洪水リスク変化(影響人口と経済損失GDP)を評価した。その結果、アジア域では浸水深変化率が2倍以上に増大する傾向と共に最大社会経済損失も大幅に増大することが確認できた。
経費名:科学研究費KAKENHI基盤B15H05136
ケニア・ヴィクトリア湖ンゴデ島での集団投薬によるマラリア撲滅と感染移入による伝播再興
研究代表者:金子 明(大阪市立大学)
研究分担者/共同研究者:加賀谷渉(大阪市立大学)、Chim Chan(カロリンスカ研究所)、
Jesse Gitaka(マウントケニア大学)他
発表者:城戸 康年(大阪市立大学)
新たな治療対策法の開発や援助資金の増加に伴い、世界的なマラリア流行は減少傾向にある。一方で対策展開の速度や効果の差などにより、多様な流行度が混在する不均一なマラリア流行地が増加しつつある。マラリア撲滅にはこうした地域での対策法の確立が不可欠である。撲滅に向けた戦略のひとつとして、対象集団住民に一斉投薬を行う集団投薬が注目されている。我々は、中~高度のマラリア流行地に囲まれたケニア・ヴィクトリア湖内のンゴデ島において、集団投薬による介入試験を実施し、マラリア撲滅とその後の感染流入による伝播再興を認めた。本研究を通じ、不均一なマラリア流行地における集団投薬展開の可能性について検討する。
経費名:基盤(A)、研究拠点形成事業(B)アジア・アフリカ学術基盤形成
因果関係の事象を表すのに使われる構文の通言語的実験研究
研究代表者:河内一博(防衛大学校)
研究分担者/共同研究者:Erika Bellingham, Jürgen Bohnemeyer, and Sang-Hee Park
(State University of New York at Buffalo)
The present study addresses the issue of how language use reflects the iconicity between the directness of causation in an event and construction types used to describe it (e.g. Haiman 1983): the more direct the causal relation, the tighter the morphosyntactic linkage of the construction used to describe it. We collected descriptions of video clips showing different causal chains from speakers of six genealogically independent languages, English, Japanese, Korean, Kupsapiny, Sidaama, and Yucatec Maya, and investigated how the tightness of the morphosyntactic linkage of the construction differed depending on the directness of causation. The factors that we examined as those of the directness of causation are: (i) causal chain mediation types, (ii) the type of the causer (human vs. natural force), (iii) the type of the affectee (human vs. object), (iv) the use vs. non-use of an instrument, and (v) the causer's intention to cause the resulting sub-event to occur.
経費名:科学研究費補助金, National Science Foundation
インド・コルカタのバス公共空間のジェンダー化と私的空間化に関する一考察
研究代表者:工藤 昭子(東京福祉大学・大学院)
ジェンダー的視点からの空間に関する研究は、基盤産業のジェンダー化(e.g. Massey, D., 1984)という経済的な側面から発展してきた。Yi-Fu, T. (1974)は個人空間と場所は社会や周囲の環境と共に変化し、成長していくものであるが個人的成長過程で生まれる「場所愛」により場所は認識されるとした。それに対しRelph, E.(1976)は、どの場所もその独自性を失ったとする「没場所性」のある場所が現代社会に広がっているとしている。見捨てられた存在のスラム街の空間(篠原, 2011)、アラブ社会の女性の活動空間(大塚, 2002)などの研究は進んでいるが、ジェンダー的視点から公共空間の一つである乗り物の中の空間を文化的に分析した研究は十分ではない。本研究ではインドの路線バス内空間を例にとり空間を分析する。
経費名:文科省
ネパール大地震の復興過程に現れるジェンダー
研究代表者:竹内愛(南山大学(日本学術振興会特別研究員PD))
ネパール大地震のコミュニティ復興過程において、男性と女性では異なる分野で活躍している。
まず、男性の復興活動は、元々持っていたネットワークの広さを生かして、復興に貢献している。具体的には、伝統的儀礼執行組織や人脈を使って、防災センター設立等、震災後早くから復興に取り組んだ。
一方、女性は、震災当時、家族のための家事をすることで精いっぱいで、家から出られなかったが、震災から3年経ち、震災以前からあった女性自助組織の活動を再開させている。家庭にいる女性ならではの視点で、住民の細やかなニーズに対応した構想をし、設立された防災センターの空きスペースや空き家等を有効活用し、住民の雇用創出を目指している。
経費名:日本学術振興会
現代エジプトのワクフの人類学的研究
研究代表者:竹村和朗(日本学術振興会/東京外国語大学)
本研究は、イスラーム的寄進制度「ワクフ」について、現代エジプトにおける法制史と概念の変遷、人々の実践状況を明らかにすることを目指したものである。ワクフは、アラビア語で所有権移転の「停止」を意味し、これにより個人は自らの財産(農地や建物など)の使用利益を特定の層に永続的に与えることができる。歴史的にワクフは救貧・福祉政策の一部をなし、近年ではイスラーム経済の一翼として期待される。ただし近現代の中東諸国では、主権国家の成立や制定法の導入を通じて、多くの改変を受けてきた。今回の発表では、2017年度からの研究計画の中間報告として、現代エジプトのワクフ制定法の内容と歴史的経緯、問題点などを検討する。
経費名:日本学術振興会特別研究員奨励費
南インドのヴェーダ儀軌「チャダンガ」の基礎的研究:古代と現代を結ぶ新領域の開拓
研究代表者:手嶋 英貴(京都文教大学)
研究分担者/共同研究者:藤井 正人(京都大学)、梶原 三恵子(東京大学)
現代ケーララ州では、ヴェーダ祭式を挙行する際、古代の祭式文献が直接用いられる訳ではなく、実際には「チャダンガ」とよばれる中近世のマラヤーラム語による指南書が用いられる。チャダンガには古代文献にないケーララ独自の要素も含まれる。本研究はチャダンガを学術的調査の対象とすることで、「古代から現代にかけてヴェーダ祭式がどう変容してきたか」という問題を解明しようとするものである。また、とりわけケーララ州においてヴェーダ祭式が今日まであり続けた背景には、チャダンガという地方語マニュアルの蓄積があった。その研究は、世界最古の宗教伝統を生きた形で伝承しえた注目すべき文化システムの理解にも繋がるだろう。
経費名:日本学術振興会 挑戦的萌芽研究
関連URL:http://www.kbu.ac.jp/kbu/reseach_ex/pdf/h29teshima.pdf
太平洋地域に出現したタイワンカブトムシ 新規バイオタイプのウイルス抵抗性要因の探索
研究代表者:仲井まどか(東京農工大学農学府)
研究分担者/共同研究者:浅野眞一郎(北海道大学農学府)
タイワンカブトムシ(別名サイカブトムシ:Oryctes rhinoceros)はヤシ類の害虫である。タイワンカブトムシに食害されたヤシは新芽が展開せず、被害が甚大になるとヤシを枯死させる。本種は、1908年にアジアから太平洋州に侵入し、その後急速に分布が拡大したが、天敵ウイルスであるOryctes rhinoceros nudivirus (OrNV)を用いた生物的防除が成功をおさめ30年以上の間、太平洋州では被害が抑えられてきた。しかし、2007年以降、OrNVに抵抗性のバイオタイプ(新しい特性をもった系統)が出現した。この新しいバイオタイプは、被害の甚大なグアム(アメリカ合衆国)の頭文字をとってバイオタイプGと名付けられ、現在もその分布が拡大している。バイオタイプGが侵入した太平洋州諸国は、ヤシ類の被害が深刻になり大きな問題になっている。2017年度より科学研究費助成事業(科研費補助金)基盤研究B(海外調査)をうけて「バイオタイプGのウイルス抵抗性に関する要因の探索」を目的とし、国際共同研究を開始した。本研究は、「バイオタイプGのウイルス抵抗性に関する要因の探索」を目的としている。
経費名:学術振興会
気象災害連鎖を生き抜くオセアニア環礁社会の戦略―アトール・レジリエンス解明に挑む
研究代表者:深山直子(首都大学東京)
研究分担者/共同研究者:棚橋訓(お茶の水女子大学)、山口徹(慶應義塾大学)、
山野博哉(国立環境研究所)
オセアニアの貿易風帯では近年、地球温暖化に起因する気象イベントの激烈化が喫緊の問題になっている。これを踏まえて、クック諸島北部のアトール(環礁)社会プカプカを事例に、2005年の巨大サイクロン・パーシーの被災から復興に至るまでの回復戦略を、文理協働の統合的手法によって解明することを目的とする研究を始めた。具体的には現地調査を軸として、文化人類学班は資源の管理・分配そして開発・回復のための「手の込んだ」組織・制度を明らかにし、ジオアーケオロジー班は生業の場を中心とする「手間暇かけた」景観の歴史を紐解きたい。その上で最終的には、「アトール・レジリエンス」モデルを構築・提唱するつもりである。
経費名:トヨタ財団、クリタ水・環境科学振興財団、科研費
満洲語教育と言語文化継承の実態―中国吉林省伊通満族自治県を事例として―
研究代表者:包聯群(大分大学 経済学部)
研究分担者/共同研究者:1)原聖(女子美術大学)、2)児倉徳和(東京外国語大学AA研)
中国東北の吉林省には86.63万人の満洲人が居住している。本研究は、吉林省伊通満族自治県(ᡳᡨᡠᠩ ᠮᠠᠨᠵᡠ ᠪᡝᠶᡝ ᡩᠠᠰᠠᠩᡤᠠ ᠰᡳᠶᠠᠨ)における満洲語の現状に焦点を当てたものである。吉林省は黒龍江省と異なり、満洲語の母語話者がいない地域である。発表者は現地での資料収集、満洲語授業への参加、言語景観に関する調査などに基づいて、学校教育現場において、満洲語の習得に生じている問題点を指摘する。また、満洲語の看板などに見られる言語景観としての満洲文字の誤り、そのあり方及び当地域における満洲言語文化の継承や復興への取り組みの実態についても報告する。
経費名:科研 基盤B(海外学術調査) 研究課題名:消滅危機に瀕する満洲語の記録保護・教育と継承・再活性化への取り組み及び実態の解明(研究課題番号:17H04524)
EBウイルスワクチン開発のための上咽頭癌地域集積性とウイルス遺伝子多型相関の研究
研究代表者:吉山 裕規(島根大学)
EBウイルス(EBV)は口腔咽頭上皮細胞へ感染し、口腔癌や上咽頭癌の原因になる。世界の9割以上の人がEBVに感染しているのに比して、これらの癌は東アジアとアフリカ地域に集積している。この地域性を分子メカニズム的に説明することは殆ど行われていない。また、欧米では稀な腫瘍であるため予防ワクチンも開発されていない。そこで、国際共同研究を行い、①口腔扁平上皮細胞に組換えEBVを感染させ、細胞の腫瘍性形質の獲得を調べた。②上咽頭がん腫瘍よりEBVを分離してEBVゲノムの遺伝子多型を調べた。EBV関連上皮性腫瘍の発生における新しい分子メカニズムを明らかにし、腫瘍を予防するEBVワクチンの開発に役立てる。
経費名:日本学術振興会
関連URL:https://kaken.nii.ac.jp/grant/KAKENHI-PROJECT-16H05843/
音声音韻及びロマ字と元文字の新正書法: ヒマラヤの原住民話者への助力
研究代表者:李勝勲(ICU)
研究分担者/共同研究者:George van Driem(University of Bernne), Selin Grollmann(University
of Bernne), Pascal Gerber(University of Bernne) Seunghun J. Lee(ICU),
Jeremy Perkins(会津大学), Julián Villegas(会津大学), 川原繁人(慶應義塾大学),
西田文信(東北大学), Hyun Kyung Hwang(RIKEN/ICU), 桃生朋子(目白大学)
発表者:川原繁人(慶應義塾大学)
本研究では、チベット・ヒマラヤ語群に属する3つの現地語(デンジョンケー語と2つのタマン語の方言) の正書法の開発を目標とする。これらの言語では、古チベット語の正書法を未だに用いており、その正書法は現在話されている言語特徴とかなり乖離している。従って、現在の言語特徴に即した形の正書法の開発のため、3言語の音響特徴を精査し、言語構造の正確な記述を行っている。これまでの成果の一例として、デンジョンケー語では、共鳴音における頭子音を持つ音節(例:[na])において、声調差が主に共鳴音に現れ、母音部分では差が生じないことがあることが分かった。このようなパターンは通言語的にも稀で、音声理論の観点からも興味深い。
経費名:独立行政法人日本学術振興会(JSPS)・スイス科学財団との国際共同研究プログラム(JRPs)
関連URL:https://sites.google.com/info.icu.ac.jp/phophono/home