海外学術調査フォーラム

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    福島原発事故被災当事者との協働研究:その創造性と課題
    Collaborative Action Research with the sufferers of the Fukushima Nuclear Power Plant Accident in 2011: Its creativeness and problems

    関谷 雄一
    (東京大学大学院総合文化研究科/文化人類学)

    講演1

     本講演の目的は、2014年から3年間、実施してきた科研費基盤研究(B)「震災復興の公共人類学:福島県を中心とした創造的開発実践(課題番号26284136)」の再評価である。一見分散的にも見える成果の断片の中で創造的観点から評価できる点を取り上げ、災害の公共人類学という視座から捉え直し、残された課題についても見通しを示すことである。

     上記、基盤研究プロジェクトにおいて研究チームは、福島原発事故の被災地・被災者たちに研究の焦点を当て、様々な角度からその過程を検証し、公共人類学の実践的アプローチも導入しながら活動を進めた。つくば市に避難してきた福島県民へのインタビュー調査から始まり、避難者と地元の行政と市民組織によるセーフティネットの構築の支援を行ってきた。またセーフティネット構築に携わった方々へのインタビュー、及び被災者を巻き込んだインタビュー記録映像の編集作業、そして映像アーカイブ作り、更にそのイメージの理論的分析そして情報発信(つくばアーカイブ)も行った。他方、つくば市関係者インタビューへの学生参加、原発事故後の福島県へのスタディーツアー(福島まなび旅)実施、被災関係者を招聘した特別セミナーの開催、無形文化財の調査研究と生活再建及び支援を伴った活動、国内外の学術界への情報発信もこなした。

     上に略記される成果の数々は、震災・原発事故からの復興という深遠なる目標に比すれば小さいもので、学術的にも成果が見えにくい。しかし、これらの成果が、当事者を含めた関係者たちによる、善意を伴った、無償奉仕に近い創造的協働によって実現できた点に注目してみたい。すなわち社会実践と学術研究の両方の活動を研究者と研究対象者が協働型で水平展開することにより成果の数々はもたらされた。

     本研究活動初期のつくば市への避難者に対するインタビューは、避難者と地元社会の様々なアクターを結びつけて、同市におけるセーフティネット構築のきっかけづくりに大きく貢献した。さらに、セーフティネット構築に関わったアクターの経験や教訓の語りをとらえた映像アーカイブは、学びを次世代に伝える記録となる。同時進行で行われたまなび旅や無形文化財保護活動などの活動も、被災者支援にとどまらず教育的見地からも実りの多い成果となった。

     学術的側面からは、外部者である調査者が、被災者が向き合っている現実を理解し、情報収集をしながら持続的な関係構築を試みる貴重な場となった。被災者との協働によってもたらされる情報の質的価値の高さも発見された。加えて、研究者による調査が、困難と向き合う人々と協働しながら行動を促すエンパワーメントの機能を果たしうることも明らかとなった。

     このような協働型の作業が効果的に融合しながら、被災者たちの生活再建と研究活動の場を構築してきた。この協働型かつ分散的で水平展開的な研究実践の形が、次世代の公共人類学のモデルと課題を示していると思われる。