海外学術調査フォーラム

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  • VI 極地・北ユーラシア・ヨーロッパ
  • VI 極地・北ユーラシア・ヨーロッパ

    座長藤田 耕史(名古屋大学大学院環境学研究科)
    本山 秀明(国立極地研究所)
    情報提供講師礪波 亜希(筑波大学ビジネスサイエンス系)
    タイトル「政策研究のためのフィールド調査:タイと極北(北欧)の経験から」

     極地・北ユーラシア・ヨーロッパ分科会は、名古屋大学大学院環境学研究科の藤田耕史准教授、国立極地研究所の本山秀明教授を座長として、参加者7名(AA研所員2名を含む)にて開催された。参加者全員による自己紹介の後、筑波大学の礪波亜希准教授により、「政策研究のためのフィールド調査:タイと極北(北欧)の経験から」というタイトルで情報提供をいただいた。以下、その概要を報告する。

     今回のトピックは、情報提供講師の礪波氏が政策研究の主たるフィールドとしてきたタイおよび北欧五か国(アイスランド・デンマーク・スウェーデン・ノルウェー・フィンランド)におけるフィールドワークに関するものであった。具体的な研究内容よりはむしろ、それぞれの地域におけるフィールドワークの特徴、とくにその問題点に焦点をあてたものであり、専門分野外の参加者にとっても理解しやすく、また互いの地域の問題点に関する情報を交換しあえるきっかけとなる情報提供であった。分科会の意図にも沿う内容といえる。政策研究においてはその政策を分析しさえすればよく、実際にフィールドに出向く必要はないという意見も強いとのことだが、政策分析というマクロな現状把握が重要な意義をもつのと同時に、フィールド調査というミクロな手法を用いることもまた重要であり、相互補完が必要であるという礪波氏の意見は説得力のあるものだった。

     最初に、タイでのフィールドワークにおける報告がおこなわれた。礪波氏は南北に延びるタイの北部から南部にいたるまで各地でフィールドワークをおこなった経験を持ち、南部のイスラム地域やそれ以外の仏教地域といった地域性、また気候の差といった点への配慮が必要であること、また政策支援・環境援助が期待されている場合には調査対象への介入を含んでしまうため、いかに対象となる政策を評価するかという点で難しさがあるということが報告された。また、調査の際には中央政府を通じて紹介された自治体に赴くという手続きをとっていたが、それに加えて現地コーディネータを活用し、地域有力者との関係を保つような配慮が必要であるとのことであった。

     一方の北欧五か国に関しては、グリーンランドを中心としたフィールドの特性について報告がなされた。近年の難民対策として北欧ではシェンゲン域外国国民の短期滞在者に対する措置が状況に応じてその都度変動するため、まず調査者はその点に注意する必要があること、非常に物価が高いこと、著作権等の知的財産権に対して敏感なため、文書の複写等に制限があることなどが困難な点として指摘された。さらに、北欧に関しては政策文書がほぼすべて公開されているためにフィールド調査の重要性が低いということも併せて指摘された。タイとの比較でいえば、北欧はタイ以上に人的ネットワークが重要視されているため、研究者間のコネクション作りも事前におこなう必要があるとのことであった。

     両地域に共通する問題としては、テロ行為が近年増加していることが挙げられた。さらに地域に限らず言語習得が重要であること、当該地域の文化的背景に即して調査対象者に対するアプローチを工夫する必要があることなどがまとめとして指摘された。言語習得という点に関しては、当該地域の言語で書かれた法律の内容と、英語版の法律の内容とが全く違うケースもあること、また言語を習得しているか否かによってそもそも得られる情報が異なるケースがあること、などが参加者から言及された。質疑では文書を複写する際の経費負担等、研究費の執行に関する内容が多くを占めた。


    (報告: 山越 康裕(AA研))