海外学術調査フォーラム

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  • I 大陸部東南アジア
  • I 大陸部東南アジア

    座長伊藤 元己(東京大学大学院総合文化研究科)
    西井 凉子(AA研)
    情報提供講師横山 智(名古屋大学大学院環境学研究科)
    タイトル「過去70年のラオス農村の人口動態と生業」

    本分科会には話題提供者1名、座長2名、書記1名を含む11名が参加した。まず参加者の間で簡単な自己紹介を行った後、話題提供者(横山智氏(名古屋大学大学院環境学研究科))が「過去70年のラオス農村の人口動態と生業」と題する報告を行った。報告者による要旨を以下に添える。


    「過去70年のラオス農村の人口動態と生業」

    横山 智(名古屋大学大学院環境学研究科)


    大陸部東南アジアのラオスを研究対象地域にして2013〜16年度に実施した基盤研究(A)海外学術調査に関する情報を提供した。最初に、ラオスで調査研究を行うための情報として、入国と滞在、調査に入るためのプロセス、カウンターパート機関について説明した。次に、海外学術調査の研究成果であるラオス天水田農村における人口動態と生業について報告した。

    人口と食料との関係に関して、ボズラップは農業集約化による食料増産によって、増え続ける人口を支えることができたとする。しかし、東南アジアの農山村部で地域がどれほど農業集約化で人口を支えることができたのか、全く分かっていない。そこで本海外学術調査では、自給自足的な生業構造を有する天水田農村の水田開発過程を過去70年に遡って復原し、小規模社会単位で人々が人口増加にどのように対処したのかを調査した。

    その結果、調査地では人口増加と比例して、開田面積が増加していたことが明らかになった。しかし、1960年代になると開田余地がなくなり、開田増加率は減少した。1980年代以降も人口増加は続いたが、開田ができないので、近隣の村から水田を購入し始めた。水田購入が増加した時期は、出稼ぎが増加した時期と重なっていた。なお、調査地の住民が開発した灌漑水田はわずか1筆で農業の技術改革は見られず、出稼ぎで得た収入で、水田を購入し、水田面積を拡大しただけであった。さらに、出稼ぎによって村の人口が減少するため、余剰米による現金収入が得られるようになった。本研究は、小規模社会集団の一事例に過ぎないが、人口増加に対処するために住民がとった戦略は、ボズラップが提示したような農業の集約化や高度化ではなかったことは明らかだと言える。調査地では、出稼ぎ収入で水田を購入し、さらに出稼ぎによって人口を減少させて村の一人当たりの水田面積を見かけ上増加させた。


    (報告: 塩原 朝子(AA研))