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    アフリカにおけるサバクトビバッタとの闘い

    前野ウルド浩太郎 任期付研究員
    (国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター/昆虫学)

    講演2

     今、アフリカが再びサバクトビバッタの脅威にさらされている。日本ではバッタの大発生は稀だが、アフリカではしばしばサバクトビバッタという大型のバッタが天地を埋め尽くすほど大発生することがある。彼らは大群で農作物のみならず緑という緑を食い尽くし、その被害面積は地球上の陸地面積の20%に及び、大発生時には年間の被害総額は西アフリカだけでも400億円以上に及ぶ。バッタの大発生は貧困に追い打ちをかけ、深刻な飢餓を引き起こすため現地では天災として恐れられてきた。

     このバッタは、混み合いに応じて姿形に行動までも変化させる相変異を示す。低密度下で発育した個体は孤独相、高密度下したものは群生相と呼ばれる。大発生時には全ての個体が群生相になって害虫化する。そのため、「どうやって群生相化するのか」その仕組みの解明は大発生の阻止に繋がると考えられ、1世紀に渡って莫大な量の研究が行われてきた。現在では殺虫剤を大量に撒けば大発生を未然に防ぐことが可能だが、環境汚染というリスクを背負わなければならない。未だに安全な防除方法がない最大の理由は、これまでのほとんどの研究は本種が実際に生息していないアフリカ以外の諸国の実験室内で行われてきたため、必要不可欠である野外生態に関する情報が欠如していることが挙げられる。そこで、私たちは野外生態を明らかにするために西アフリカのモーリタニアの国立サバクトビバッタ研究所と共同研究を2011年度から開始し現地でフィールドワークに取り組んでいる。

     研究所では大発生の兆候をいち早く察知するために組織的に日本の国土の3倍の地域をパトロールし、発生状況を常に把握する必要がある。調査隊は無線や衛星を使用し、砂漠からでも本部に速やかに連絡し、ただちに防除隊を現場に送り込む。30年にわたる活動により、大発生が起こりやすい地域や時期が把握されている。しかし、広大な砂漠を管理するのは難しいため、衛星を使用した植物の分布パターンからバッタの発生状況を推察する手法の開発等に取り組んでいる。

     私たちはサバクトビバッタの習性を利用した新規の防除システムの開発を目指している。これまでに特定の植物にサバクトビバッタが群がることを明らかにしている。例えば、この習性を利用すると一カ所にバッタをおびき寄せ、一網打尽にするなどの技術開発の足がかりとなる。フィールドから得られた情報を基に、環境保全を考慮した持続的な防除システムを構築することが、殺虫剤依存からの脱却の一助になる。

     FAOによると、現在もアフリカでサバクトビバッタの大発生の兆しが見られ、強い警戒を促している。私たちの出番が刻一刻と迫っており、最前線で彼らを迎え撃つ準備を着々と進めている。