海外学術調査フォーラム

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  • VI 極地・北ユーラシア・ヨーロッパ
  • VI 極地・北ユーラシア・ヨーロッパ

    座長藤田 耕史(名古屋大学大学院環境学研究科)
    本山 秀明(国立極地研究所)
    情報提供講師渡辺 佑基(国立極地研究所)
    タイトル「ペンギンとマグロとサメの最新科学」

     極地・北ユーラシア・ヨーロッパ分科会は、名古屋大学大学院環境学研究科の藤田耕史准教授、国立極地研究所の本山秀明教授を座長として、参加者9名(AA研所員4名を含む)にて開催された。参加者全員による自己紹介の後、国立極地研究所の渡辺佑基准教授により、「ペンギンとマグロとサメの最新科学」というタイトルで情報提供が行われた。以下、その概要を報告する。

     今回のトピックは、情報提供講師の渡辺氏が南極およびオーストラリアにておこなったバイオロギングによる調査の成果報告であった。バイオロギングとは、とくに海洋生物の、人間が直接観察することのできない行動をとらえることを目的として、対象となる生物に小型の記録計をとりつけ、データを記録する研究手法である。近年電子機器の小型化・高性能化が進む中で開発された研究手法であり、このデータを分析することにより、これまで未知であったさまざまな生物の生態が判明するようになってきた。情報提供講師の渡辺氏が報告で取り扱ったのは、アデリーペンギン、ヒラシュモクザメ、ホホジロザメの3種の生物である。

     南極でおこなわれたアデリーペンギンに関する調査では、バイオロギングによって水中での捕食の様子を記録することに成功した。アデリーペンギンがオキアミを捕食することはこれまで知られていたが、オキアミをどのように捕食しているのかはこれまで未解明であった。この調査では、アデリーペンギンの背に小型カメラをとりつけ、海中での行動を記録した。この記録映像から、アデリーペンギンがオキアミの群れに飛び込んでおよそ1秒間に2匹のペースでオキアミを捕食することが明らかとなった。高速で、効率よく捕食する映像を初めてとらえた調査であった。

     続いては、オーストラリア・ケアンズでおこなった海洋生物調査に関する報告であった。この調査はもともとはイタチザメの生態を調査することを目的としていたが、偶然ヒラシュモクザメに記録計を取り付けることに成功したことから、ヒラシュモクザメの生態調査を実施することになったという。ヒラシュモクザメにとりつけた記録計から得られたのは、おおよそ60°~-60°の角度に向きを変えつつ、傾きながら泳いでいるということだった。実際に傾いているのかどうかを検証したうえで、「ヒラシュモクザメ特有の長い背ビレが第3の胸ビレとして機能することにより、エネルギー効率よく長く泳げるのではないか」という仮説を立て、風洞実験でその仮説が正しいことを裏付けた。

     最後に報告されたホホジロザメの調査では、オットセイを追いかけて捕食するデータをとることに成功した。これは魚類が哺乳類を捕食するという極めて稀な例のひとつである。ホホジロザメはマグロ同様、体温が水温よりも高い魚類である。こうした魚類は体温が逃げにくく、海中を速いスピードで泳ぐことが可能である。オットセイを捕食するには高速で泳ぐ必要があるが、ホホジロザメはその条件を備えているために捕食が可能となっていることが検証された。

     その後の質疑では、バイオロギングの研究手法がどの程度メジャーになってきているのか、機器に関するトラブルにどのようなものがあるのかといった質問が出たほか、南極での過ごし方・問題点などに関する情報提供があった。


    (報告: 山越 康裕(AA研))