海外学術調査フォーラム

V 北米・中南米

座長関 雄二(国立民族学博物館)
渡辺 己(AA研)
情報提供講師八木 百合子(国立民族学博物館)
タイトル「ペルーの社会状況と南高地における人類学的調査」

北米・中南米分科会は、国立民族学博物館の関雄二教授と東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所の渡辺己教授を座長として、参加者6名(AA研所員を含む)を得て開催された。

分科会前半では、座長と情報提供講師、書記の簡単な紹介に続いて、国立民族学博物館研究戦略センターの八木百合子機関研究員により、「ペルーの社会状況と南高地における人類学調査」と題して情報提供が行われた。終了して間もないペルー大統領選挙の結果分析に続いて、ペルーの社会状況全般について紹介が行われた。首都を含む海岸部への人口集中、経済発展による中間層の拡大が見られる一方で内陸の山岳地帯とジャングルで特に顕在化する社会格差と貧困の問題、治安・犯罪状況やテロ活動、それらと密接に関連する麻薬問題の現状、さらには、社会紛争の頻発と暴力化、その一因となっている鉱山開発に伴う環境問題の発生などが、統計資料も用いて解説された。最後に、ペルー南部の高地の農村社会を対象として講師が行った人類学調査の成果の一端が紹介され、テロの激化を契機とした農村から都市への人口移動の増加、農村移住者の都市定着と彼らと農村社会とのつながりがもたらす都市社会と農村社会の連動的な変化の様子が説明された。

分科会後半では、参加者全員による自己紹介のあと、前半の情報提供の内容にそうかたちで、ペルーの近年の経済発展とそれに付随する社会的変化・問題、特に治安・犯罪状況や麻薬の原料となるコカの栽培・使用の現状について、質疑が行われた。さらに、近年の社会運動の暴力化とその背景に関して、運動と「先住民」との関わりの相対的な弱さやその歴史的要因をまじえて、活発なやりとりがかわされた。また、都市・農村間の活発な人の移動について、背景や、結果としての都市・農村社会の連動的な変容のあり方について議論が行われた。公共交通機関が未整備な地方農村を対象に調査を行う際に付随する諸問題(例えば、移動手段の確保方法)についても、あわせて活発な情報交換が行われ、盛況のうちに散会した。


(報告: 太田 信宏(AA研))