海外学術調査フォーラム

III 東アジア

座長窪田 順平(総合地球環境学研究所)
蓮井 和久(鹿児島大学)
情報提供講師出雲 周二(鹿児島大学)
タイトル「中国福建省でHTLV-1関連疾患を探る」

 本分科会は話題提供者1名、座長2名、書記1名含め総勢11名が参加して行われた。まず参加者の間で簡単な自己紹介を行った後、話題提供として、出雲周二氏(鹿児島大学)により「中国福建省でHTLV-1関連疾患を探る」という題目での報告と質疑を1時間程度、さらに座長の提案により1時間程度、参加メンバーの研究についての紹介と、各人の研究、特に中国やモンゴルでの個人の調査研究や共同研究を行う中での問題について意見が交換された。

 出雲氏の報告は、日本で約40年前に鹿児島大学のグループにより発見されたウイルスHTLV-1とそれにより引き起こされる疾患、HTLV-1関連脊髄症(HAM)の中国・福建省での分布状況を現地調査により明らかにする、というものであった。質疑では、本研究が血液検体を資料として扱っていることから、プライバシー、倫理規定を始めとした資料の取扱い(資料へのアクセス、および日本への持ち出し)に関する問題を中心をして討論および情報交換が行われた。出雲氏からは討論に関係して以下のような情報が提供された。

  • 本調査研究は現地の血液センターが保有する血液検体に対するスクリーニング検査にもとづくが、中国の厳格な倫理規定により、患者本人の要請がない検査が認められず、また要請があった場合でも当該のセンターの長の研究課題として行う必要があり、日本側はセンターの長との共同研究としてしか関わることができない。
  • 血液検体、その分析によるDNA情報も含め国外に持ち出すことは倫理規定から認められず、許可を得る方法が不明であったため、日本側は検体の検査、および検査結果の分析を全て中国のカウンターパートに一任することとし、日本側は目的とする調査を中国側に委託する共同研究体制の構築を目標においた。(注:この点については、座長の蓮井氏より、中国側のカウンターパートの機関の倫理委員会を通し申請し許可を得る必要があるが極めて困難である、との情報が提供された。)
  • 当初日本側は検体の検査と検査結果の分析は日本の施設で行う方が正確・精密な分析が可能であると考えていたが、中国の経済発展により、医療機関に国際的に最先端の機器が導入されるなど研究環境が急速に整備されたことにより、検体の検査と検査結果の分析が少なくとも日本で行うのと遜色ない、あるいはそれ以上の水準で行われた。

 本分科会では他に、現地での調査協力者の探し方や関係構築の方法、中日・中台関係への配慮、日本側の機関での会計処理の厳格化による海外旅費の執行の困難といった問題が討論され、情報が共有されたが、特に中国で経済発展に伴い金銭面を含めた研究環境が整備されたことにより、従来行われてきたような、日本が資金を提供し、中国が調査のリソースを提供するという形式の共同研究の枠組みが変化しつつあるという認識が共有されたことが今回の分科会の大きな成果であった。


(報告:児倉 徳和(AA研))