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  • VII サハラ以南アフリカ
  • VII サハラ以南アフリカ

    座長曽我 亨(弘前大学人文学部)
    河合 香吏(AA研)
    情報提供講師浜田 明範(国立民族学博物館)
    タイトル「西アフリカのカカオ農村地帯における生物医療と感染症」

     サハラ以南アフリカ分科会では、医療人類学を専門とする浜田明範氏(国立民族学博物館先端人類科学研究部機関研究員)の情報提供を起点に、細菌学、公衆衛生学、地質学、社会人類学、生態人類学、開発経済学などを専門とする17名の参加者により、文理融合的な議論と情報交換がおこなわれた。

     はじめに浜田氏が「西アフリカのカカオ農村地帯における生物医療と感染症」というタイトルのもとで話題提供をおこなった。うち前半部では、氏の調査地である西アフリカ・ガーナ共和国の状況が紹介され、治安、ビザ、健康管理と病気、資料の持ち出し、人権・倫理問題といった諸点をめぐる最新の情報が提供された。本分科会に参加していた複数のガーナ研究者にとり、とりわけ有意義な情報になったものと推察される。

     後半部では、浜田氏が現在進めている「西アフリカにおける感染症対策と生権力の複数性に関する人類学的研究」の内容が紹介された。氏によるとその研究目的は、「フーコーに端を発する生権力、統治性、装置についての研究を発展的に継承することにより、人間と環境の関係を動態的に描くこと」にあるが、本分科会ではとくに結核を焦点とした「人間と環境の関係」が多角的に論じられた。すなわち、ガーナにおける公的な結核対策のあり方が「環境の改編としての統治」という観点から分析される一方、ある女性の事例を通じて、結核を罹患した個がいかに環境を改編していくかという点が具体的に考察され、最終的には、この女性による環境の改編過程が「他のアクターによる統治実践と同一の領域でおこなわれ、それらと干渉しながら環境を書き換えていくもの」であったという鮮やかな見解が導出された。

     話題提供の後、参加者の自己紹介をまじえて質問やコメントが提出された。とりわけ論議の中心となったのが感染症の問題である。話題提供の主題となった結核以外にも、マラリアやコレラが議題にあがり、各参加者の調査地域における感染症および感染症対策の状況が伝えられるとともに、調査にあたって参加者自身がいかに対策をとるべきかという点についても活発な意見が交わされた。また、感染症と密接な関係にある栄養学的問題(調査者が現地でいかなる食事をとるかという問題を含む)や貧困という社会的・経済的問題、機材の持ち込みや調査成果の持ち出しの問題などについても踏み込んだ議論がおこなわれた。


    (報告:佐久間 寛(AA研))