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  • VI 極地・北ユーラシア・ヨーロッパ
  • VI 極地・北ユーラシア・ヨーロッパ

    座長藤田 耕史(名古屋大学大学院環境学研究科)
    本山 秀明(国立極地研究所)
    情報提供講師檜山 哲哉(名古屋大学地球水循環研究センター)
    タイトル「温暖化にともなう東シベリアの水環境変化と社会の適応」

     極地・北ユーラシア・ヨーロッパ分科会は、名古屋大学大学院環境学研究科の藤田耕史准教授、国立極地研究所の本山秀明教授を座長として、参加者10名(AA研所員2名を含む)にて開催された。参加者全員による自己紹介の後、名古屋大学地球水循環研究センターの檜山哲哉教授により、「温暖化にともなう東シベリアの水環境変化と社会の適応」というタイトルで情報提供が行われた。以下、その概要を報告する。

     今回のトピックは、情報提供講師の檜山氏がプロジェクトリーダーとして組織し、2009~2014年度まで実施された総合地球環境科学研究所の研究プロジェクト「温暖化するシベリアの自然と人―水循環をはじめとする陸域生態系変化への社会の適応」(通称:シベリアプロジェクト)の概要とその成果に関する報告であった。当プロジェクトは旧来の異分野並列型(Multi-disciplinarity)の共同研究ではなく、異分野融合・学際型(Inter-disciplinarity)の共同研究として自然・人文科学の各分野から構成される多数の研究者により組織され、地球温暖化の影響により東シベリア・サハ共和国の自然環境がどのように変化し、その変化に対して社会がどのように適応しているかを解明するための研究プロジェクトである。カウンターパートとしてロシア科学アカデミーの協力を得、現地での調査・研究への便宜がはかられた。

     温暖化は生態系に影響を与える。温暖化により永久凍土の融解・劣化が起こり、タイガの湿潤化がすすむ。その結果植生が変わり、資源動物であるトナカイのえさとなるトナカイゴケが減少したため、30年前に比べより高標・高域にトナカイが生息するように変化した。さらに温暖化の影響で春の出生率も低下しているため、現在は越冬地を保護区に指定しようという動きもある。また、温暖化による洪水も深刻な問題となっている。東シベリア・サハ共和国を南から北へ流れるレナ川は、氷結した河川が上流から順に融解することで毎年春に洪水が起こる。流域の牧畜民は、在来知(経験知)にもとづき集団による季節移住という方法をとり、この洪水を回避する。しかしながら近年は夏季にも洪水が発生するようになった。この洪水は地球温暖化の影響によって北極海の海氷面積が減少し、低気圧の発生頻度が高まり、それにより多雨となった結果引き起こされるものであり、在来知によって回避することが困難であるという。こうした温暖化への影響に加え、当地ではソ連邦崩壊にともなう種々の影響もある。これら非常に多様な要因が複雑に絡み合う状況をもとに今後の社会・自然構造の変化を予測するシナリオ・ダイナミクスモデルを構築した。今後、こうした成果は現地社会との「共創」による超学際型研究へと発展することが期待される。

     その後の質疑では、現地研究者との関係づくりがどのようになされたか、シナリオ内の要因の強弱によって予測が大きく変わりうるが、それをどのようにチューニングするのか、成果は現地研究機関とどのように共有されているのか、といった質問があった。


    (報告:山越 康裕(AA研))