海外学術調査フォーラム

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  • II 島嶼部東南アジア・太平洋
  • II 島嶼部東南アジア・太平洋

    座長岡本 正明(京都大学東南アジア研究所)
    髙樋 さち子(秋田大学教育文化学部)
    情報提供講師甲山 治(京都大学東南アジア研究所)
    タイトルインドネシア熱帯泥炭湿地における水文気象観測

    まず全員で自己紹介を実施した(詳細は略)。


    自己紹介に続いて甲山准教授(京都大学東南アジア研究所)による報告が「インドネシア熱帯泥炭湿地における水文気象観測」と題して行われた.甲山准教授はインドネシアのリアウ州で若手研究A工学枠でのプロジェクトに基づく研究に関して報告を行った.その内容は多岐にわたったが下記のような項目が含まれている.


     まず甲山准教授は,インドネシアにおける泥炭湿地開発の歴史を報告した.リアウ州は1950年代から油田開発が進んだが,泥炭湿地では1970年代以降,まず内陸部から商業伐採が進行した.石油産業は,利益の85パーセントは中央政府に、残り15パーセントは企業に渡り,地方政府の取り分はなかった.泥炭湿地は道路建設が難しいことから,陸路もなく海路のみであった.1998年のスハルト政権崩壊に始まる民主化とともに,地方分権化が進むと,県政府の権限が強まるようになった.こうして,石油採掘による収益のうち県政府に入る割合が多くなり,泥炭湿地が多くを占めるリアウ州東部にも道路が整備された.しかし1990年代後半からは,6年程度の短い周期でアカシア植林と伐採を繰り返す林業プランテーションや,森林を伐採して造成されたアブラヤシ農園が急速に展開している.このような開発は,経済発展著しいアジア地域のパルプや世界のオイルパーム油需要の増大が引き金となっている.経済規模のグローバル化によって住民や企業の泥炭湿地に対する行動原理が変化し,これまで手つかずであった環境を集約的に利用した結果,泥炭地破壊を招来することになった.これらの開発は、泥炭湿地からの大規模な排水を伴い,強酸化による土壌の劣化のみならず,泥炭湿地の乾地化による広範な火災をもたらしている.


     この状況に対処するため、甲山准教授のプロジェクトでは,劣化した泥炭湿地は元の状態には戻らないという前提に立ち,劣化過程の解明や劣化した土壌の診断手法の開発に重きをおいている。具体的には、土地利用や地表面状態の違いによる水循環過程の解明や,火災の発生場所と頻度の特定,泥炭湿地における土壌劣化のプロセスの解明などを、主として自然科学的な手法を用いて行っている。その一方で,インドネシア語での現地調査を行い,火災の発生状況と住民の認識の比較,土地所有制度や木材販売など,インドネシア熱帯泥炭地社会の問題点に関しても研究を進めている.文献および現地調査から熱帯泥炭湿地社会とは何かを理解し,さらには自然科学的手法を用いて熱帯泥炭湿地社会の再生に向けた提案を行っている.


     最後に,フィールドでの観測機器の持ち込みに関して,インドネシアにおける調査ビザ申請や税関での免税手続きに関する報告があった.


    (報告:塩原 朝子(AA研))