海外学術調査フォーラム

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  • V 北ユーラシア・中央アジア・極地・北米(含 ヨーロッパ)
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    座長藤田 耕史(名古屋大学大学院環境学研究科)
    本山 秀明(国立極地研究所)
    話題提供者青木 輝夫(気象研究所)
    タイトル「グリーンランドにおける氷床・氷帽の観測」

     本発表では,科学研究費補助金課題「北極域における積雪汚染及び雪氷微生物が急激な温暖化に及ぼす影響評価に関する研究」(“Snow impurity and glacial microbe effect on the abrupt warming in the Arctic (SIGMA)”,基盤研究 (S),H23~H27年度)の研究背景と目的,現在までの研究成果,及び調査地域に関する様々な情報について説明がなされた。

     本発表冒頭では,海氷面積と積雪面積について,気候モデル予測値と実際の観測値との比較が提示され,ほとんどのモデルの予測がはずれていることが示された。これらの情報は海面上昇などの予測に重要であるが,いかにそのようなモデルを開発することが困難であるかを表している。氷床の質量収支(氷や雪の量の変化)は,降雪による涵養量と,氷床から氷河となり海へ流出する量との相対的関係により決まると考えられるが,現在グリーンランドでは氷床質量の減少率が年々加速している(人工衛星観測によるグリーンランドの質量収支に関するデータ及び,1991年に作られたSwiss Campが2011年には崩壊している事実等から,1990年代後半から急激に減少していることが示された)。その基本的原因として,温室効果による気温上昇が挙げられるが,それを考慮に入れても予測はかなり困難である。

     温室効果による気温上昇とは別に,黒色炭素等の光吸収性エアロゾルの増加や雪氷微生物の繁殖により,雪氷面アルベド(太陽光反射率)が低下していることが,グリーンランドにおける氷床質量減少の一因と考えられる。これらの積雪汚染や雪氷微生物によるアルベド低下が雪氷の融解にどの程度寄与しているかを現地で観測するため,本研究プロジェクトが立ち上げられた。これまでに北西グリーンランドの氷床・氷帽上における自動気象観測装置の設置,雪氷,放射,衛星検証,雪氷微生物等の集中観測がなされており,2014年度には内陸氷床上でのアイスコア掘削が計画されている。これら現地観測と衛星観測によるデータを元に,雪氷物理プロセスモデルを開発し,高度化することが本研究の最終的な目的である。

     続いて,調査地域であるグリーンランドの地理的情報と,実際の調査過程,政府関係観測許可手続き,調査地(Qaanaaq)までの交通手段・交通費,現地拠点・ヘリオペ,想定される危険と安全対策,荷物輸送,現地調達可能物資・施設,現地観測におけるその他一般的事項について,地図・写真・図表とともに詳細な説明が行われた。2012年7月12日のグリーンランド氷床表面全域融解イベント発生時の現地の状況(4日間連続の降雨観測)についても,紹介された。また,グリーンランド氷床上における雪氷微生物がどのようにして繁殖したかについては,いくつかの仮説があり得るが,現在までの研究成果から,栄養塩(ダスト)の供給源は,氷床近傍の裸地からの短距離輸送によるもの(+過去に氷体に取り込まれたもの)と見られることなども示された。

     質疑応答では,雪氷微生物がどのようにして氷床上にとどまっているのかについての補足説明や,その繁殖過程に関する分析等が提示される一方,ヒマラヤの氷河との相違点,グリーンランドの住民の生活様式や問題意識,調査物資の梱包方法,現地スタッフを雇用する際の留意点や謝金の支払い方法等について,様々な情報・意見交換がなされた。


    (報告:伊藤 智ゆき(AA研))