海外学術調査フォーラム
III 東アジア
座長 | 蓮井 和久(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科) 中見 立夫(AA研) |
話題提供者 | 朔 敬(新潟大学大学院医歯学総合研究科) |
タイトル | 「噛みタバコ関連口腔がん調査」 |
1.開会に際して
中見から事務連絡、蓮井より報告者の紹介があった。
2.話題提供
「噛みタバコ関連口腔がん調査」 朔 敬(さくたかし・新潟大学)
0.はじめに
口腔がんの原因のうち、世界各地で共通のものに噛みタバコがある。噛みタバコは、中国では台湾、そしてインド洋沿岸・南太平洋島嶼を中心に広がる食習慣・文化。手術しても生存率が低く、薬も放射線も効きにくい「口腔がん」にどう対応するか?「1予防,2早期発見」。予防が一番だが、予防にはその原因を理解する必要がある。
1.中国での調査
中国で「唾液腺リンパ上皮性癌」に関する調査研究(1994―2004年度)を行った。リンパ上皮性癌は、ウイルスにより鼻・胃にできる(中国南西)。ヒト細胞の中にウイルスが入り、細胞を壊わさずに長期に潜んで(=潜伏感染)がんを作る。
中国では、中山医科大学などとの共同研究に従事した経験から交流が拡大した。中国での仕事はとにかく「関係」(信頼関係)が大事ということを学習し、その後の研究展開に役立っている。
2.がんのフィールドワーク
病理学におけるフィールドワークとは、各地の病院での顕微鏡による病理組織標本の観察が基本。組織切片上で蛋白質や遺伝子を検索する。 マダガスカル、パストゥール研究所でも実施したが失敗。同所員の意欲がなかった。国際共同研究の鍵は「信頼できる現地パートナー」にある。
3.口腔がん
口腔がんの原因を探る二つのアプローチ(マクロ:疫学的調査,ミクロ:細胞実験)。わが国では口腔がんは増加している。その理由を調べるには世界的な多発地域、インド・パキスタン(噛みタバコのために多い)での状況調査が参考になる<。
スリランカでも調査した。南アジアでは歴史的に噛みタバコが文化として定着している。噛みタバコのほかに嗜好品がない。子どもの頃からの習慣、貧困が病気の背景。
ミャンマーでは「噛みタバコスタンド」があちこちに。漆塗りの工芸=煙草入れなど、噛みタバコはミャンマーの文化とも密接に関係している。口腔がん予防対策を講じるべく、石油工場の禁煙環境では噛みタバコがその代替習慣になっているので、工場労働者を対象としたコホート調査研究を実施している。
3.質疑応答
10分ほどの休憩の後、参加者による自己紹介があった。次のような質疑応答があった。
問「本当に『タバコ』なのか?」
答「噛みタバコ。英語(論文など)ではchewingとしている。日本語で適切な用語が無い」
問「覚せい剤?」
答「常習性はあるが覚せい剤ではない」
問「噛みタバコの分布は?」
答「アフリカにも広がっている。アラビアではカート葉噛みという異なるタイプがある」
問「産業構造の影響は?炭鉱夫の眠気覚ましとか」
答「キャンデーのようなものがない。背景には、文化のほかに貧困も」
文中敬称略
(報告:荒川 慎太郎(AA研))
