海外学術調査フォーラム

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  • Ⅴ 北ユーラシア・中央アジア・極地(含ヨーロッパ)
  • V  北ユーラシア・中央アジア・極地 (含 ヨーロッパ)

    座長本山 秀明(国立極地研究所)
    近藤 信彰(AA研)
    話題提供者長沼 毅(広島大学大学院生物圏科学研究科)
    タイトル「辺境生物学から宇宙生物学への飛躍プラン」

     人類が初めて宇宙に飛んだ日に生まれ,20歳の誕生日にスペースシャトル・コロンビアの初飛行が行われるなど,宇宙と関わりのある誕生日を過ごしてきた長沼氏は,幼少より宇宙に強い関心を抱いていた。宇宙飛行士試験にも挑戦したが,惜しくも落選。その後,そもそも子供の頃,「生命はどこから来てどこへ行くのか」という疑問を抱いていたことを思い出し,現在の専門である辺境生物学へと歩むことになる。

     長沼氏が訪れた辺境は,恐ろしいほど広範囲に及んでいる。サハラ砂漠(チュニジア)に行き,塩湖などに住む微生物の採取。南米アタカマ砂漠の塩湖。その後極地砂漠というものがあることを知り,南極へ向かう。露岩域スカルブスネスの長池に生息する,コケ坊主という珍しい水底植生の調査研究を行う。また広島大学生物生産学部練習船「豊潮丸」に乗り,深海での調査を実施。そこで出会った不思議な深海生物・チューブワームは,食べることをやめた(独立栄養の)動物である。栄養供給を体内の共生微生物に依存し,海底火山ガス(硫化水素)がエネルギー源となっている。

     一方,海底面だけでなく,海底火山の下や,地中奥深くに存在する深部地下生物圏の研究を進めていく。地下生物圏には最低でも3~5兆トンの微生物が生息していると見られ,その生育可能な深さの下限は温度で決まっているらしい(現在分かっている最高生育温度は122度)。このことから,生命は,太陽の恵みを受けた奇跡の存在なのではなく,地球という惑星自体が生命を育んでいるのだ(例:チューブワーム,地下生物圏)という考えに至る。

     つまり,海底火山があれば,言い換えれば,水と熱があれば生命は生きられるのだろうか? 長沼氏は,水と熱のある惑星や衛星を探し出した。木星のガリレオ衛星のうち,第二衛星エウロパは,表面が氷で覆われているため見えないが,その下では活発な火山活動が起きていると見られる。エウロパの内部海(氷の下の海)は,深さ50km以上と言われているが,計算上,潜水調査船「しんかい6500」であれば,その水圧にも耐えうるはずである。エウロパにもチューブワームはいるのだろうか? 長沼氏の研究対象は,辺境生物学から,憧れていた宇宙生物学へと,更に飛躍することとなる。

     講演の最後には,地球環境変動に対する微生物の応答を調べるため,国際極年(IPY 2007-2008)公認の地球環境─微生物プロジェクトMicrobiological Ecological Responses to Global Environmental Changes (MERGE) が,史上初の日本主導プロジェクトとして進行中であること,また極域調査に当たり注意しておくべき点(地域の治安状況,調査手続き・ビザ,地域問題と対処法,健康管理,会計関係,科研制度の改定,資料・試料の持ち出し,人権・倫理の問題)について,言及がなされた。また質疑応答において,科研費応募に関して留意しておくべき点,試料取得の際のcontaminationの問題などについて,議論が行われた。


    (報告:伊藤智ゆき(AA研))