海外学術調査フォーラム

III 東アジア

座長窪田 順平(総合地球環境学研究所)
三尾 裕子(AA研)
話題提供者相馬 秀廣(奈良女子大学文学部)
タイトル「中国乾燥地域における衛星考古地理学的調査とGPS」

1.開会に際して

 三尾から事務連絡、参加者による自己紹介、窪田より報告者の紹介があった。


2.話題提供「中国乾燥地域における衛星考古地理学調査とGPS」相馬秀廣(奈良女子大学)

 2007年3月以降、中国では外国人のGPS使用が禁止される一方、報告者の実施する、砂丘地域や遺跡の調査にはGPSは不可欠である。そのような中、07―10年度の科研では、カウンターパートとの研究協力協定締結などにより、GPS調査が実施できた。
 報告者の研究は、自然地理研究からシルクロード研究へ移行し、昔は衛星写真CORONA、後に高解像度衛星QuickBirdのデータを利用することになった。「衛星考古学」は、単なる空から見た情報取得にとどまらず、文献史学、考古学、地理学などが合同現地調査などの連携により研究を進めていく。
 2007年2月以前のGPSに関しては、実質的には、現場では使えるが、「生データ(緯度経度情報)の公表不可(論文で使用できない)という状況であった(例えば、数値は表示せず位置を点で表現するなどは可能)。
 2007年3月1日以降中国国内における外国人のGPS使用が禁止され、直後に、国境付近でGPS利用による拘束事件が発生した。それらを考慮し、「研究の目的と意義」、「具体的な調査地点」、「GPSの利用法、その結果の国外への持ち出し法」ほかを詳細に記載した「日中合作調査に関する協定書」を、中国の2つの大学と発表者の間で作成した。
 報告者の調査活動においては、カウンターパートの積極的な調査協力に加えて、GPS使用を含めた研究協力者兼通訳として有能なキーパーソン、優秀な現地ガイド、卓越したテクニックを持つドライバーなど人材に恵まれた点も大きかった。その他、総合地球環境学研究所の「オアシス」プロジェクトによる調査の蓄積があったことなど、さまざまなアドバンテージが存在した。
 最後に、高解像度画像から、従来未報告だった、当該地域の前漢代における最大規模の「方形囲郭」抽出、それを踏まえた当時の屯田開発プラン、さらに囲郭規模・囲郭の方向と強風方向の関係に着目した他地域との比較など、ピンポイントから広域まで対象のスケールをシームレス変化させられる衛星データの利点を生かした、報告者の衛星考古学を通して得た知見が披露された。


3.質疑応答

次のような質疑応答があった。
 問「協定書を申請してから許可が下りるまでの時間は?」
 答「正確にはわからない。各機関が連続的に関与するため。研究内容にもよるが、今回は3ヶ月」
 問「GPSで『秒』まで出してはいけないというのは?」
 答「中国の論文では『分』までしか表記されないという事情による」
 問「機器の持ち込みはどのようにしているか?」
 答「日本から普通に持ち込んでいる」


(報告:荒川慎太郎(AA研))