海外学術調査フォーラム

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  • II 島嶼部東南アジア・太平洋
  • II 島嶼部東南アジア・太平洋

    座長梅崎 昌裕(東京大学大学院医学系研究科)
    髙樋 さち子(秋田大学教育文化学部)
    岡本 正明(京都大学東南アジア研究所)
    話題提供者大崎 満(北海道大学農学研究院)
    タイトル「熱帯泥炭と地球温暖化」

     本分科会では、北海道大学の大崎満先生に「熱帯泥炭と地球温暖化」と題して話題提供をいただいた。

     東南アジア島嶼部、特にインドネシアのカリマンタン島には、膨大な炭素が固定されている熱帯泥炭地が、世界的に見ても集中して分布している。しかし、過去数十年来、農地開発などによりこの熱帯泥炭地の破壊が進み(排水による分解の促進、火災の頻発)、結果として膨大な量の二酸化炭素が大気中に放出されているのが現状である。インドネシアは二酸化炭素放出量で現在世界第3位だが、排出源の多くは泥炭地と森林の破壊によるものであり、地域的に双方が集中するカリマンタン島の生態系の維持は、気候変動や生物多様性の観点からもきわめて重要である。

     北海道大学は1997年から拠点大学交流として、中カリマンタン州パランカラヤにおいてLIPI(インドネシア科学院)と協力し、温室効果ガス量観測、火災の検知・防止、水位モニタリング・管理、泥炭の生態系などに関する調査研究を行なっている。これによって得られたデータは目下のところ世界唯一のものであり、泥炭から放出される二酸化炭素量を今後クレジット化する上でも、重要な根拠となり得る。

     泥炭地100万haから排出される二酸化炭素量は、微生物分解だけで日本の排出量(1990年ベース)の3%、火災によるものは10%にものぼる。それゆえ、同地域の生態系を日本の技術援助で守ることができれば、日本が現在目標として掲げている二酸化炭素排出量6%削減を、容易に相殺することもできる。

     「コペンハーゲン合意」以降、森林減少・劣化を抑制する「REDD(Reducing Emissions from Deforestation and Forest Degradation)」からさらに踏み込んで、植林や生態系維持活動などによって積極的にクレジットを発生させる「REED+」のメカニズム構築が、国際的に模索されている。インドネシアでは中カリマンタン州がこのパイロット地となり、モデル構築事業が動き始めている。北海道大学は、これまでの蓄積を活かし、地上での観測のみならず、衛星なども活用して水位等のデータを計測することで、炭素量を評価するMRV(測定・報告・検証)システムを提案している。仮にこのシステムをオール・ジャパンで構築できれば、「REDD+」で必要とされる数値を具体的にシミュレーションすることができるが、その実現には依然様々な困難が伴うのが現状である。

     泥炭から排出される二酸化炭素量を計測するのみならず、継続的に生態系を保全していくためには、地域住民の生活向上にもつながるような形のプログラムを導入する必要がある。その一方で、一部では「REDD+」によって発生するクレジットを目当てとして、関連事業が投機の対象になりつつあるという問題も生じている。


     報告内容に関する質疑応答では、泥炭地開発の現状や、二酸化炭素排出量報告の信頼性、またそれらに伴う政治動向などにまで踏み込んだ、活発な議論がなされた。

     今回フロアには、東南アジア島嶼部で初めて実地調査を予定している参加者がおり、調査許可の種別や取得手続き、科研などを含めた助成獲得の可能性などについて、基礎的情報の交換もなされた。


    (報告:津田浩司(AA研))