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ヤシの木ウシに乗ったトロ・ドンクー

テキスト提供:小島恵子さん

 

これは、トロ・ドンクーのお話です。

ある日、王様が、ベランダにすわっていますと、ふいに、トロ・ドンクーが、庭を通 り過ぎました。

「おい、トロ・ドンクー!わしが、どれいと国民に、わしの庭を足で汚すな、と言ってあるのを忘れたか?罰は首きりだぞ……」

「王様、どうぞお許し下さい。私はそのご命令を知らなかったのです。今度からは、王様のご命令に従います」

そして次の日、トロ・ドンクーが、わざと王様の庭を通りました。けれども、今度は、歩いてではなく、ウシに乗っていました。ウシはゆっくり歩きながら、たえまなく、ふんをしていました。

「おい、トロ・ドンクー!きのう、庭を汚すなと言ったばかりではないか。なのにまた、命令に逆らったな!」

「王様、たいへん申しわけありません。私は、ほんとうに王様のご命令に従いました。王様は、足で庭を汚すなとおっしゃいました」

「もちろんだ。それが命令だ」

「ですので、私は、私の卑しい足でお庭を汚さないように、ウシに乗っているのです。」

ウーム、王様は、恥ずかしくなりました。

「よろしい!だが、これからは、お前の顔など見たくない!もし、命が惜しかったら、二度と、わしの庭を通 るな!」

「御命令に従います。」

しかし、その次の日、トロ・ドンクーが、またウシに乗って庭を通 りました。顔には黒い布をかぶせていました。

「おい、トロ・ドンクー!お前は石頭か?わしに首を切ってもらいたいのか?今またお前はわしの命令にそむいた」

「王様、どうぞ、お許し下さい。ですが、ほんとうにご命令は守っております。王様は、この卑しい足で庭を汚すな、そして、王様の前に顔を見せるな、とおっしゃいました」

「そうだ、それが命令だ」

「ですので、私は牛に乗っていますし、この見苦しい私の顔を黒い布でおおっています」

ウーム、二回目も王様は黙ってしまいました。王様は、トロ・ドンクーの利口さにたちうちできませんでした。その日からずっと、トロ・ドンクーは、王様のあらゆる命令に悩まされずにくらしました。

 


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