<スラウェシの民話> 前のお話

ヤシの木ラ・ダナとウシ

テキスト提供:小島恵子さん

 

ある日、ラ・ダナは、友だちといっしょにお葬式から帰って来ました。二人は、お葬式を出した家からもらった一頭のウシを連れていました。

お葬式では、殺したウシの肉を、参列した人たちに分けるのです。大きさは、それぞれの社会的地位 によって、きまっています。頭をもらう人、片足をもらう人、心臓か肺をもらう人、肉だけをもらう人、というぐあいです。

ラ・ダナと同じ村の友だちは、二人分をいっしょにすると、ウシ一頭になるので、話し合って、その家の主人に、生きているウシを一頭もらいたいと頼んだのです。うれしいことに、主人は話がわかりました。

この二人には、生きているウシが渡されました。殺すか育てるかは、もらった二人が考えることです。ラ・ダナの分は、後足一本で、そのほか全部が友だちの分でした。

このウシをふとらせるのに、ラ・ダナが面倒を見て育てることになりました。

二・三日すると、ラ・ダナが、友だちの家へ来て、いいます。

「ウシを殺そうよ。ボクの分のももの肉を食べたいんだ」

友だちは承知しません。彼は、ラ・ダナにウシが太るまで待ったほうがいいとさとしました。が、ラ・ダナは、殺すんだといいはりました。

「キミが、自分の分を欲しくないのなら、ボクは、ボクの分をもらっていいね。ボクは、自分の分を切りとるよ。キミの分は、大きく育てたかったら育てるといいよ」

「ラ・ダナ、それはむちゃだよ。キミの分を切ってしまえば、ウシは死んでしまうよ」

しかし、ラ・ダナは、がんこに、後の足を一本切るといいはりました。話し合って、友だちは、ラ・ダナに、もう一本の後足をあげることにしました。

ラ・ダナは、足がニ本になったので、満足そうに、「育ててもいいよ」といって、牛をつれて帰って行きました。

一週間後、ラ・ダナが、また、友だちのところに、肉が必要だから、ウシを殺そう、と誘いに来ました。

友だちはこれを聞いて、びっくりしました。ウシを今殺さなければ、前足を一本あげるといっても、ラ・ダナはききいれません。

「じゃあ、もう一本の前足もあげるよ。四本足はキミのものだ。胴と頭がボクのものだ」

「それならいいよ」

とラ・ダナはいってウシをつれて帰りました。

このことがあってからひと月、ラ・ダナがまた友だちの家へやって来ていいます。

「ウシを殺そうじゃないか」

「ああ、お前はなんてきまぐれなんだ。ひと月で、ウシはこれだけ太ったじゃないか。もう少し太らせてみようよ」

「キミは育てたいなら育てるがいいさ。だが、ボクの分はもらうよ」

「そんなバカな!四本足を切ってしまったら、ウシは死ぬよ。足を切らないと約束してくれたら、お前に同体もやるよ。ボクの分は頭だけだ」

「それなら太らせよう」

それからひと月たちました。ラ・ダナが、またウシを殺そうと、友だちのことろへ押しかけてきました。友だちは仕事が手一杯で、いらいらしていました。

「ああ、ラ・ダナ。お前というやつは、いやになっちゃう。お前が二度と、ここに来ないなら、ウシを全部やるよ」

ラ・ダナは、これを聞いて、たいへん喜びました。ラ・ダナは、それから、このウシを大きく育てたのです。

 


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