パクリの領主
テキスト提供:小澤俊夫さん
むかし、パクリの国に暴動が起きた。この暴動の原囚はあまりに独裁的に政治をおこなった領主の習慣によるものだった。それで領主は家来たちに殺された。その後その一族のものはだれも民衆から領主としてうけ入れられるものはいなかった。ようするに民衆はもはや領主をもちたいとは思わなかったのだ。
ある日のこと、上品な娘が森の中へはいっていって、お米を炊くのに使えるような竹を切ろうと思った。切るのにいいようないちばん太い竹をみつけると、その娘はまずかまの背中で、これから切ろうとする幹をたたいてみた。
すると突然竹の幹の中から声が聞こえてきた「この竹は切らないでくれ!」だが娘は答えた「いいえ、この竹を切らなきゃならないわ」。
するとその声はまたこう言った「どうかぼくにあわれみをかけてくれ。そしてどうかこの竹は切らないでくれよ」。
娘はまた答えた「この竹を切らなければ、わたしは飢え死にするにきまっているわ。なにしろわたしは煮物をする土鍋をもっていないんですもの。わたしはこの竹を煮物のために本当に必要なのよ」。
するとその声がまたこう言った「君がこの竹をどうしても切って、しかもぼくを殺さないでおいてくれようとするなら、こういう条件を守ってもらいたいんだ。竹の節を下から数えて二番めのところで切ってくれ。決して三番めの節で切らないでくれ。そこはぼくの脚なんだから。四つめの節にはぼくの頭があり、そのあいだを切られてしまったら、ぼくはかならず死んでしまうんだ」。
「いいわ、あなたの条件を注意してやるわ」と娘が答えた。娘はその竹を切った。竹は地面に倒れた。「ああ、君はぼくを受けとめてくれないものだから、ぼくはひどいめにあったよ」とその声がまた言った。
「そんなことあなたはさっきの条件の中に入れていなかったじゃないの」と娘は答えた。
するとその声がまたこう言った「たしかにそうだね。それならまあいいや。あなたは命令どおりにすることのできる娘だね。それじゃあもうひとつきいてくれよ。今度はこの竹を七番めの節まで切りなさい。それから縦にふたつに切ってごらん。けれどもかならず両手で割ってほしいんだ。決してナイフを使わないでくれ。そうでないとぼくはけがをするか、あるいは死んでしまうからね」。
娘が八つめの節まで切るとまた声が聞こえた「ああ、ぼくの髪の毛が」。
娘の両手が切られてけがをした。「もう割るのはやめたわ。手をけがしちゃった」と娘が言った。
「もっと割ってくれよ、そうすればぼくの罪が全部終わるんだ。君のけがは全部割ってしまえば、君にとってよいことになるんだよ」とその声が言った。
娘は竹を割り続けていった。すると竹の中から勇者のような若者がとびだしてきた。けれどその大きさは竹のひときれの高さしかなかった。
その若者は娘に言った「君はぼくのことを助けてくれたのだから、本当は結婚してくれなきゃいけない」。
「いいえ、わたしはあなたと結婚しないわ。なぜってあなたは竹のひときれ分の大きさしかないんだもの」と娘が答えた。
「もし結婚がいやならぼくの頭に一度でいいから口づけをしてくれよ。それでじゅうぶんなんだ」と若者が言った。
すると娘が答えた「そのくらいのことならいいわ」。娘は若者に口づけした。口づけが終わると若者はふつうの人間の大きさになった。
ふたりは結婚し、村へ帰っていった。村びとたちは竹の王子が、結婚したばかりの妻といっしょに来るのを見ると、怒ってふたりを捕まえようとした。
そのとき竹の王子が片手を上げた。すると人びとはみな気を失って倒れてしまった。パクリの民衆はこの王子の魔法の力を知ると、この竹の王子を領主にすることに意見が一致し、決めた。ふつうの民衆の出である妻は貴族に列せられた。
竹の王子はパクリの国を正義にもとづいて正直に治めた。そのために家来のひとたちからたいへん愛された。パクリの国は栄えた。