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ヤシの木遺産のひとり占め

テキスト提供:小澤俊夫さん

 


 むかし、ひとりの金持ちの男が三人の息子を残して死んだということだ。長男と次男は父からうけついだ畑の仕事をいつも力をあわせてやっていた。ところが末の弟は、父の遺産を全部商売の元手としたいと思っていた。それで兄ふたりと末の弟とのあいだでたびたび争いがおきた。この争いは悪魔にけしかけられてしだいにひどくなり、しまいに兄たちは弟を殺して遺産を全部自分たちの手に入れたいと思うようになった。どうやったら弟を殺せるかとたびたび相談したが、これまでうまくいかなかった。

 そして末の弟も自分のいろいろな計画が、いつも兄たちによって妨害されるのでひじょうに腹を立てていた。しまいに弟は、ふたりの兄を殺して父の遺産を全部自分の手におさめ、そっくりそのまま商売の元手にしようと決心した。そして何度も兄たちを殺すことを試みたが、これまで成功しなかった。

 ある日のこと、ふたりの兄たちはどうしても弟を殺そうということになった。それで弟を市場へ食べ物の買い入れに行かせた。弟が出かけていくと、ふたりの兄はそれぞれこんぼうを持ち、ひとりは家の前の入り口に、もうひとりは台所口で弟を待ち伏せした。ふたりは同時に力いっぱい弟の頭をなぐって殺すことをとり決めておいた。ところが弟のほうでもふたりの兄を消す計画をひそかにねっていた。ある悪い男が弟に、買った食べ物の中へ毒を入れておくといいと入れ知恵してくれた。ふたりの兄たちが後でその毒入りの食べ物を食べたら死ぬだろうということだった。

 弟は今度こそ計画がうまくいくだろうと思って得意になりながら急いでうちへ帰ってきた。弟はやがて完全に自分のものになるであろう父の遺産全部が目の前に浮かんだ。もちろんたいへん金持ちになって、美しい女房をもらうことができるだろう。やがて弟は自分の家の台所口に着いた。そして一歩足を踏み入れたその瞬間に、こんぼうで頭をひどくなぐられたのでよろよろとよろめいた。弟は外へ逃げていって、救いを求めようとした。けれども前の戸口までくると、もうひとりの兄のこんぼうが首筋に命中し、弟はそこに倒れて死んでしまった。

 ふたりの兄たちは弟の死を喜んだ。そしてすぐ遺産を全部平等に分けはじめた。ところがそのとき、弟がたった今市場から買ってきたばかりの食べ物が目にはいった。兄たちは毛筋ほどの疑いももたずにがつがつとそれを食べた。するとまもなくふたりとも体のなかがもえるように熱くなるのを感じ、吐いた。この食べ物のなかに混ぜこまれた毒はひじょうに強かったらしく、ふたりの兄もしまいに死んでしまった。

 


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