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ヤシの木えびとかたつむりとありの共同耕作

テキスト提供:小澤俊夫さん

 

       
 あるとき、一ぴきの車えびが、お日さまにあたりに岸へ上がってきた。地面をはって歩いているうちに、堤防の道のへりにある石の上にかたつむりがいるのに気がついた。「おい、友だちよ、注意してくれ! ここで楽しくやっている他人のじゃまをするもんじゃないぜ」と、かたつむりがじょうだんを言った。

 「どうぞご心配なく、友だちよ! わたしは自分の目を使わないってわけじゃないからね!」と、車えびがやり返した。

「ところで、どこへ行くんだね?」と今度はかたつむりがきいた。「きくのはおよしよ――もっとよい食べ物を捜しにね」と車えびが答えた。

すると、大きなありが叫びながらやってきた「おい、おい、おい! いったい、何を言い争っているんだね?」 

 「あんたも話にはいりたければ、こっちへおいでよ、友だちよ!」と車えびが金切声で言った。すると、ありが答えた「よろしい、行くよ! ところで、どんな食べ物があるんだい?」  「風の料理だよ、友だち。どうぞ、ご自由に深く吸いこんでくれ!」  「そうかい。だが、遠くから聞いたところでは、あんたはもっとよい食べ物を捜しにいくと言っていたじゃないか!」 

 「本当だ、本当だ! 仕事をみんなでやったらいいんじゃなかろうか」と車えびが言った。「共同で畑を耕したらいいだろうなあ」とかたつむりが言った。「わかった、わかった」と車えびが言った。「だれの畑をいちばんに耕そうか?」とありがたずねた。

すると、車えびが答えた「ぼくの畑だ。ぼくの畑は遠くないよ。この水路のへりにあるんだ」。「君がごはんを作ってくれれば、あしたからぼくらは、仕事を始めよう」と、かたつむりとありが言った。

 翌日の朝早く、かたつむりとありは仕事に出かけていった。そして車えびは、食事の用意をした。太陽がだんだん高く昇ってきた。かたつむりとありは、仕事で次第に疲れてきて、胃袋はもうクウクウ鳴っていた。かたつむりとありは、何度も何度もお日さまの方を見たが、車えびはいつまでたっても、ごはんの用意ができたぞ、という声を聞かせてくれなかった。「おい、友だちよ、ちょっと行って、車えびが何を作っているのか見てきてくれよ。もうできたのかできないのか。ぼくらの胃袋はもうクウクウ鳴ってしようがないよ」とありがかたつむりに言った。

かたつむりは急いで台所へ行った。そして、くり返し頭をあげて眺めてみた。遠くの方から台所に大きな火が見え、三脚の上では鍋が煮たっているのが見えた。「おい、友だちよ、どうしたね?」とかたつむりが遠くの方から声をかけた。けれども、返事はなかった。「ハロー」とかたつむりはまた叫んで、台所の中へはいっていった。

ところが、かたつむりの見たものは、なんだったろうか? 車えびは大きな火に包まれて、体がまっ赤になっていた。そしてとっくに焼け死んでいた。死んで固くなった友だちを見たかたつむりの悲しみは、とても口では言い表せなかった。そして、泣いた。かたつむりが鼻をかむと、胃袋が全部からっぽになってしまって、かたつむりも死んだ。

 一方、ありはそこに座って、いつまでもあてもなく待っていた。かたつむりの帰ってくる音はいつまでも聞こえなかった。それで、ありはようすを見に出かけていった。遠くから声をかけたが、だれも返事をしてくれなかった。

ところが、台所へはいってみると、ふたりの友だちが焼け死んで床に倒れているのを見てどぎもを抜かれた。「ああ! なんと恐ろしいことだ! わが友よ!」と、ありはため息をついた。それからありは決心して、ふたりの友を埋葬することにした。ところが、車えびの死体を背中に負って運び出そうとしたとき、ありの背骨が折れ、ありもやはり死んでしまった。

 これが、三人の友だちの運命だ。

 


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