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ヤシの木ドリラーナ

テキスト提供:小澤俊夫さん

 

    
 サダン川の美しい平和な平野に、むかしひとりの地主とその妻が、もう成人した娘ドリラーナといっしょに住んでいた。

 この地主はきびしい父親で、たびたび娘をなぐった。そして父親は腹を立てて子どもを打つたびにこう言った「おまえがまたそんなことをしたら、パクパク・セロカがおまえをお嫁さんにもらってくれないぞ、ドリラーナ」

 上手のほう、サダン川の上流にもうひとりの大地主が、パクパク・セロカという名まえのひとり息子と暮らしていた。この地主もたびたびひとり息子に対して腹を立てて、息子をたたくたびにこう言った「おまえがもしまたそんな悪いことをしたら、ドリラーナがおまえをお婿さんにしてくれないぞ」

 そんなことが何度もくりかえされた。このふたりの地主は子どもに対して腹を立てるたびにいつもきまってこう言っておどかした。

 そのうちにドリラーナの心のなかに、父親がなぜパクパク・セロカと自分の名まえを結びつけるのか、そしてその名まえの男はどこに住んでいるのか、また、両親がそのひとをそれほどほめるけれど、いったいどんな顔をしたひとなのかを知りたいという願いがわいてきた。

 日がたつとともにこの願いは大きくなり、しまいにドリラーナはその若者の村を捜し出すために旅に出た。ドリラーナは男の服装をして川上へあがっていった。そして村を通るたびにパクバク・セロカという名まえの若者がいないかとたずねた。ひとに聞くたびにみな川上へ行けというので、ドリラーナはどんどん川上へ向かっていった。やっとのことでパクパク・セロカの村に着くと、ドリラーナはまっすぐその若者の家へ行った。そしてパクパク・セロカが本当に美しく、いきで力強そうなのがわかった。ドリラーナの心のなかにこの若者への愛が燃えあがった。そしてなんとかしてこのひとを夫にしたいものと思って計略を考えた。

 ちょうどそのころ、パクパク・セロカの両親が新しく家を建てようと思っていた。それでドリラーナは両親のところへ行って、自分は大工で、家を建てることができると言った。パクパク・セロカの両親はたいへん喜んでドリラーナに家を建ててくれとたのんだ。ドリラーナは森の中へはいっていった。そしてひとの話によればドリラーナは家を建てるのになんの苦労もしなかったということだ。ドリラーナは必要なことを口に出すだけだった。するとあっという間にすべてそのとおりになった。ドリラーナが「家の門よ立て」と言うと家の門が一瞬にしてそこに立っていた。何分間かのうちに家は完成した。そして必要な道具はすべて整っていた。そうやってからドリラーナは神がみに、この家を森の中から、パクパク・セロカの両親の、もう本当に倒れそうな家の前にもっていくことをたのんだ。パクパク・セロ力の両親はドリラーナがなしとげた奇跡を見てたいへん驚いた。

 その家の建築祝いがおこなわれ、たくさんの水牛や豚が神がみへのいけにえとしてつぶされてから、大工の賃金を払うときがきた。

 はじめパクパク・セロカの両親は米をだした。けれどもドリラーナはそれを断った。自分の田んぼにはたくさん稲が実っていまずと言って。両親が水牛で支払おうとするとドリラーナは自分の柵の中には水牛がたくさん飼ってありますと言った。両親が銀で支払おうとすると、ドリラーナは自分の家には銀がたくさんあるので銀はいりませんと答えた。最後にパクパク・セロカの両親は金で支払いをしてもよろしいかと尋ねた。するとドリラーナは金はうちにたくさんあるので少しも不足していないと答えた。

 そうなると両親はどうしていいかわからなかった。いったい何で支払ったらいいのだろう? そのあいだにドリラーナはしばらくのあいだ家の中にはいっていったかと思うと、今度は女の着物を着て出てきた。ドリラーナはかわいらしくたいへん魅力的だった。ドリラーナはパクパク・セロカの両親に自分の名まえを告げて、自分はパクパク・セロカの名まえをずっと前から知っていて、そのひとのことを愛しているので、パクパク・セロカで支払ってほしいと申したてた。パクパク・セロカの両親もまったくこれには異存がなかった。それどころか自分たちのほうでもドリラーナを嫁に迎えたいと思っていたので、パクパク・セロカをしかるときにいつもドリラーナの名まえをあげたほどだったのだから。

 こうやって、やっとのことでパクパク・セロカとドリラーナは結婚した。そしてふたりで幸せな暮らしを送った。あるときは川下のドリラーナの両親の家に住み、またあるときは川上のドリラーナによって建られた家に住んだ。

 


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