<スラウェシの民話> 前のお話 次のお話

ヤシの木ダラガンさん

テキスト提供:渡辺(岡崎)紀子さん

 

昔、ダラガンという男の人がおりました。彼はルイク・ダトという人と結婚しようと思っていました。

ダラガンが結婚の申し込みに行くと、相手の父親はこういいました。「娘をお前にやるわけにはゆかないよ。ただ、お前が家を金に変えることができれば許してもいいがね。」

ダラガンがやがて妻になる人のために家をぜんぶ金にしてしまうと、ルイク・ダトの父親はまたこういうのです。「あの家の庭まで船でゆけるようにしたら、わしは結婚を許してやる。」

ダラガンがルイク・ダトの家の前まで水路を作る仕事を終えると、二人は結婚しました。

数ヶ月が過ぎたある日、ルイク・ダトは、「ねえ、ダラガン、私のためにマンガをとりに行って。棒でとったのは食べないわよ。あなたの目でとってくれれば食べるわ」といいました。

ダラガンはマンガをとりに畑へ行きました。その留守にド・タタシクという名の森の精がやってきて、ルイク・ダトにいいました。

「ルイク・ダトよ、お前はもう袋のねずみだ。おれはお前の心臓を食べ、お前の身体の血をぜんぶ吸ってやる、お前が何かある物をくれなければ。」

ルイク・ダトはある物をすべて与えましたが、池に放り投げられてしまいました。そして流れただよいビャクダンの木の根っこの間にはさまってしまいました。

ダラガンがマンガを取って帰ってくると、つまのベッドに森の精が休んでいるではありませんか。ダラガンはびっくりしてしまいました。

森の精はいいました、「ポポンの木は二種類ない、ベンダスの木は三種類ない、私はルイク・ダトなのだ。」

ダラガンは、今話しているのは人間だ、と思いました。それで、「ルイク・ダトが早く戻るように宴会を開こう」と彼はいいました。

部落の人たちは多ぜいで川向こうのビャクダンの木をきりに行きました。彼等が行ったところはちょうどルイク・ダトがビャクダンの木の根にはさまれたところでした。

みんながそのビャクダンの木に近ずくと、ルイク・ダトはすばやく木の上に登り、そこからこう叫びました。

「ビャクダンの木をきらないでおくれ、
根っこに傷をつけないでおくれ、
これはルイク・ダトの住み家、
長い髪をした女と生まれたばかりの
子供の家だよ。
あの長くゆらゆら垂れた髪の女の家よ、」

みんなは家に帰り、ダラガンに聞いつきたことを話しました。

「本当かどうか行って聞いてこよう」とダラガンはいいました。

彼がビャクダンの木のところに着いて、木をきろうとすると本当にルイク・ダトがまた同じことをいったのです。

ダラガンは木に登ると、ルイク・ダトと子供を連れておりてきました。

ダラガンは鉄のオリを作りました。そして出来あがると森の精にいいました。

「この鉄のオリに入れ、お前にふさわしい場所だよ。」

森の精は中に入り、外から鍵をかけられました。ダラガンは森の精にルイク・ダトの持物をみんな返えすよう命じました。

何もかももとどおりになると、彼は森の精をヤリでついて殺しました。

ルイク・ダトと赤ん坊はダラガンの家に帰ってきました。三人は楽しく暮しました。

 


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