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ヤシの木ボス王女

テキスト提供:小澤俊夫さん

 

      
 ボス王女は両親からたいへん愛されていた。それで屋根の下の中二階に自分だけの部屋をつくってもらった。

ボス王女のいる国に、ラ・マンジュアリという名の王子がいた。王子もまた父母にたいへん愛されていた。父母は息子を愛するあまり、息子に家から出てあちこち歩きまわることを禁じていた。

ラ・マンジュアリは召し使いから、自分の家から遠くないところにボスという名まえの美しい優雅な王女がいることを聞かせてもらった。その顔は丸く白くて、まるで満月のようだ。その目は明けの明星のようで、その腰は細く、ふくらはぎは米粒と同じ形だということだった

ラ・マンジュアリはいろいろなほめことばを聞くものだから、たいへん興味をそそられ会いたいものだと思うようになった。

王子はこの王女をほめたたえるいろいろな話にとりつかれて、ある晩のこと自分の部屋から急いでぬけ出して王女の宮殿へ行った。

ま夜なかにボス王女の部屋の上の棟木へこっそりよじ登りはじめた。ボス王女はぐっすり眠っていた。ラ・マンジュアリが王女のベッドの真上にある穴から入っていこうとしたその瞬間に、王子が身につけていた短剣がすベリ落ち、王女の胸をつきさした。王女は声もたてずに死んだ。宮殿は大さわぎになった。それでラ・マンジュアリは屋根から降りて急いでうちへ帰った。

 調べあげた結果、ボス王女の胸をつきさした短剣はラ・マンジュアリのものであることが明らかになった。ラ・マンジュアリは問いつめられて自分の罪を告白し、ボス王女を埋めることをせずにボートにねかせて、自分といっしょに海へ流してほしいとたのんだ。人びとはラ・マンジュアリのこの願いをきき入れた。ありあまるほどの食料が用意された。

 まもなくラ・マンジュアリはボス王女の死体といっしょにボートに乗って外洋へ流れでた。それからラ・マンジュアリはボス王女の傷の手当てをした。つぎの日の朝になると、ボス王女が息をふきかえしたように思われた。またそのつぎの日には王女は体を動かすことができるようになった。そしてしまいに王女は起きあがった。

「わたしはいったいどこにいるの?」とボス王女がたずねた。ラ・マンジュアリは王女にでき事をいっさい話して聞かせた。ボス王女はラ・マンジュアリの話を聞いているあいだに泣きはじめ、声をあげて泣いた。それでもすぐにラ・マンジュアリになぐさめられた。勇敢で優雅で愛らしい王子のラ・マンジュアリを見ていると、ボス王女はまた木当に心楽しくなった。

 二、三日してからふたりはある川の河口にいかりをおろした。ラ・マンジュアリはほとんど眠っていなかったので、すっかりくたびれた。それでボス王女にしばらく眠らせてくれとたのんだ。

王子が眠っている間にボス王女は水あびをしようと思ったが、ちょうどそこへ宮廷の女たちの一群がやってきた。女たちはこの優雅な魅惑的な王女がボートに座っているのを見てすっかり心をうばゎれ、すぐ帰っていって主人にそのことを知らせた。

まもなくその王の使いがボス王女を招待しにやってきた。けれどもボス王女は王さまの宮殿に行くことをことわって、自分はいま眠っている仲間の見張りをしているところだと言った。

王さまの使いが再びボス王女を招待しにやってきた。ほんのちょっと旅の食料を整えにくるだけでもいいから寄ってくださいというのが王さまからの伝言だった。ボス王女は王さまの招きをうけ入れた。

ところがボス王女が宮殿に着くと王さまは王女をとりこにした。なにしろこの娘を自分の女房にしたいと思ったのだ。ボス王女は絶えず宮殿から逃げ出そうと計略をめぐらせたが、いつも成功しなかった。そのうちに王さまはボス王女と空で楽しく語り合うために空飛ぶ船をつくらせた。必要なものやあらゆる装備がすでに整えられたけれども、ボス王女がいつまでも帆を結びつけるひもをいじくっていたので、この空飛ぶ船はまだ空中に舞いあがることはできなかった。

 ラ・マンジュアリは眠りからさめると、ボス王女がボートにいないことに気づいた。けれども王女の着物がまだ船にあったので、ボス王女はだれかにだまされたにちがいないと思った。それでラ・マンジュアリは王女を捜しに出かけた。

するとたくさんのひとが空飛ぶ船のまわりでなにかやっているのが見えた。人びとは空飛ぶ船を飛ばそうとしていたが、なかなか飛びあがらなかった。ラ・マンジュアリはその空飛ぶ船を点検してみて、どこに故障があるかを知った。それで王さまに自分が空飛ぶ船をなおしてあげましょうと申し出た。

修理が終わると、ラ・マンジュアリは王さまに空飛ぶ船を試させてくださいと願いでた。そしてそのうえ、ボス王女だけは自分の目で確かめていただきたいので、空飛ぶ船に乗せてくださいとたのんだ。王さまと大臣たちはこのテストに下から立ち会うことになった。

ボス王女が乗りこむと、ラ・マンジュアリは空飛ぶ船の帆をあげた。すると船はどんどん高くあがっていった。王さまはラ・マンジュアリに向けて大声で叫び、その名を呼んだが、ラ・マンジュアリとボス王女は笑いながら王さまに別れのあいさつをおくった。

空飛ぶ船はどんどん遠くへ飛び続け、しまいに故郷の両親の家のあいだに着陸した。村の住民たちは空飛ぶ船が自分たちの村に降りてくるのを見てたいへん興奮した。しかもその興奮はボス王女と、ラ・マンジュアリが空飛ぶ船からおりてくるのを見たとき頂点に達した。ふたりはやがて結婚した。そしてラ・マンジュアリは王さまに選ばれた。

 


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