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ヤシの木トゥミレン

テキスト提供:小澤俊夫さん

 

      
 トゥミレンというのは、ある農夫の名前なんだがね、トゥミレンは、地上でとれる米がどうしてこんなに小さなものばかりなんだろうといつも気にしていた。トゥミレンは、天国の米はとても大きくなって、ラングサットの実ほどにもなり、マランソットと呼ばれていることを耳にした。マランソットの実を、天国の人たちは地上のひとに売ってくれなかったので、トゥミレンは、いく粒か手に入れようと出かけることにした。トゥミレンは、友だちのマカエラとスメレンドゥックとに相談し、行った先でふたりに手を貸してもらうことにした。

 そのころ、ロコン山には、天国までとどく木が繁っていた。その幹にはたくさんの刻み目があって、人びとはよくそこを登ったり降りたりしていた。

 トゥミレンは、マカエラとスメレンドゥックをおともにして登っていった。天国にたどりつくと、天国の王女たちがちょうど日なたでマランソットを干しているところに出会った。「どうして、あなたがたのような地上のひとが、こんなところにいらしたの?」 天国の王女たちが尋ねた。「おいらは、ここへ飛んできた青いにわとりを捜してますだ」トゥミレンは、こう答えた。

 「青いにわとりですって? ここには青いにわとりなど一羽もいませんわ。ここのにわとりはみんなまっ白ですよ。でも、まあ、ちょっと捜してごらんなさい!」 トゥミレンは、そこここを捜して歩くふりをしながら、天国の王女たちが日なたで干していたマランソットの上を急いでふんで回った。かかとに以前引っかいた傷があったので、その傷の間に、マランソットの種が何粒かはさまった。それから、三人は地上にもどっていった。途中、トゥミレンは、天国のはしごの上で、マランソットを十二粒すっかり取り出した。

ところが、天国のひとはいつも必ず自分たちの米の数を勘定するので、トゥミレンと彼の友人が帰ったあと種が何粒か足りなかったから、天国では大騒ぎになったのである。何千人もの人びとが、どろぼうを捕まえに出発した。それでトゥミレンは「マカエラよ、おまえのカを見せてくれ!」と言った。

 マカエラは剣を抜いて、東に向かって打ちおろした。その剣は魔法の力をもっているので、太陽の登ってくるところまで長くのびた。そして西に向かって打ちおろすと、その剣は、太陽の沈むところまで長くのびた。天国の人びとはそれを見ると、心臓がふるえた。

今度はトゥミレンがこう言った「スメレンドゥック、おまえの力を見せてくれ」。スメレンドゥックは、貝殻の笛を吹いた。すると、つむじ風がおきて、だんだん激しくなり、いつまでも吹きやまないので、天国の人びとはこらえきれなくなって、許しを請うて、家に帰ってしまった。しかし、帰りぎわに、天国の人びとは、マランソットの実がたくさん実るように、ダダップとヴァラントカンの木の下に埋めなさいと言いおいていった。

 マランソットの実はほんとうにたくさん実ったけれども、その種は普通の米粒ほどに小さなもので、天国のラングサットの実ほどには大きくならなかった。

 マランソットの実がいくら育っても小さいままなので、マカエラの心は重くなった。マカエラは、出かけていって、ロコン山の頂上にある、今までそこから人びとが天国に登っていくことができたあの高い木を切り倒した。それから、山の頂きを運んでいって、海へ投げ捨てた。――こうして、マナドトゥアの島はできた。そのとき以来、地上のひとと天国のひととの間のつながりは切れている。


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