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ヤシの木子どもたちがねずみになった話 

テキスト提供:小澤俊夫さん

 
 ある村のはずれに、ひとりのおばあさんがふたりの孫といっしょに暮らしていた。このおばあさんは、布を織って暮らしをたてていた。その布を、お米やとうもろこしと交換して、食べ物を得ていた。


 ある日のこと、おばあさんはふたりの孫たちにこう言った「きょうは海へ行って、魚をとってくるよ。おまえたちは、留守番をしてごはんの用意をしなさい。ココやしのいれ物に水をたくさん入れて、米粒をひとつ入れて煮るんだよ」


 おばあさんは、そう言うと海岸へ出かけていった。そして、ふたりの子どもたちはごはんをたくために火をつけた。ココやしのいれ物を洗っているあいだに、兄がこう言った「今、おばあさんは、鍋いっぱいのごはんをたくのに、お米をひと粒入れろと言ったね。だけど、ひと粒じゃとても鍋いっぱいにならないと思うんだ」。

すると弟がこう言った「ココやしのいれ物にいっぱいお米をとれよ。そうすれば、鍋はかならずいっぱいになるぜ。そしてぼくらも、たくさん食べられるじゃないか」。

「そうだ、そうだ。きょうはきっとおばあさんは大きな魚を釣ってくるだろうから、ぼくらはなるべくたくさんごはんをたいておかなきゃあいけない」。

兄弟は、ココやしの器にいっぱいお米をとって煮はじめた。ところが煮ているうちに、ごはんは鍋からあふれた。そしてしまいには、ごはんが彼らの小屋の近くの溝に流れ込んで、さらに川へ流れていき、そこから海にまで流れ込んだ。じきに、海の一部分がごはんでいっぱいになってしまった。


 この大量のごはんを見ると、おばあさんはすぐに、自分のうちで何が起きたかがわかった。孫たちをなぐってやろうと思って、おばあさんは急いで家へ帰ってきた。家に着くとまず長男にきいた「お米をどのくらいしかけたんだね?」 「たくさんだよ、おばあさん。ココやしのいれ物にいっぱいさ」。

「わたしはおまえたちに、ひと粒だけしかけろと言わなかったかね?」 「あいつが、ココやしの器にいっぱいお米をしかけろと言ったんだよ」と、兄は答えて弟のほうを指さした。「ちがうよ、おばあさん。ぼくはそんなこと命令しやしないよ。兄さんがお米をいれたんだ」と、弟が逆らって言った。

ふたりの孫たちがこうやって互いに罪のなすり合いをしているのを見ると、おばあさんは本当に腹たたしくなってきた。それで木綿打ちの棒を手にとって、ふたりの子供の頭をなぐりつけた。すると、その瞬間にふたりの子はねずみになってしまった。


 ふたりの子どもは、自分がねずみになってしまったのがわかると、急いで逃げていって穴の中に隠れた。おばあさんは、孫たちがねずみに変身してしまったのを見て、泣いた。そしてふたりの孫をその穴の中からおびきだそうとした。けれども子どもたちはこう答えた「おばあさん、それはもうできないことだよ。ぼくらはねずみになってしまった。それで、もうおばあさんといっしょに暮らすことはできないんだよ。おうちへ帰ってください。そしてもう悲しまないで。これは、孫たちがなにかまちがったことをしでかしたからといって、木綿打ちの棒なんかで頭をなぐったりしてはいけない、ということの警告なんだよ」

 


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