<ロティの民話> 次のお話

ヤシの木いいつけを守らなかった娘 

テキスト提供:渡辺(岡崎)紀子さん

 

ロテ島はちっちゃな島です。大きな町なんかありません。部落がぽつんぽつんとあったり。ちょっとした村や町らしいものがあるだけです。そこのある村にむかし年老いた未亡人と孫娘が住んでいました。家は一間だけの小さなものでした。家の裏にはわずかばかりの野菜畑があり、大豆やイモなどが植えられていました。とはいえ二人が食べてゆくにさえ十分ではありませんでした。

年老いた女は毎日海へ魚をとりに行きました。そのあいだ孫娘はご飯をたき、カレースープを作りました。夕方になると女は魚を持ってかえり、魚を料理しました。それから二人はいっしょに食事をします。こうして二人は毎日を過ごしていました。

ある時、女はいつものように海へ出かけようとして、孫娘にいいました。

「きょうは米一粒だけたいておくれ、それで充分だからね。」

そういって女はでかけました。娘の方はとても不思議に思いました。「米一粒ばかりたいてもどうにもならないは。面 倒なだけじゃないの。二人分に足りるはずがないもの。」

娘は一カテ(625g)の米を計りました。火をおこし鍋に米を入れ、火にかけました。娘はご飯ができるのを待ちました。一時間ぐらいたってからもうたけたかしらと鍋のふたを持ち上げると、おカユがあふれ出てきました。そして流れはじめ、とまらないのです。さあ、娘はびっくりしてしまいました。「どど、どうしたのかしら。どうやったらいいのかしら」と娘はあわてふためいて右往左往するばかりです。

そうしているうちに熱いおカユはあふれ続け、台所一面 に流れると外にもあふれ出しました。ついには家の庭いっぱいおカユがはんらんしてしまいました。娘はおばあさんを探しにかけ出しました。どんなに怒られるかとずっと泣き続けました。

海の近くでかえりかけていたおばあさんに会いました。泣きじゃくりながら娘はつつみかくさず出来事を話しました。娘はいつも正直でした。おばあさんは話を聞き終わるとたいそう怒って丸太をひろって孫娘を打ちました。可愛そうに娘は痛がって悲鳴をあげました。すると……不思議なことに娘が消えてしまったのです。そしてそこには一ぴきのサルが現れました。その動物は実はさっきの娘が化身した姿でした。

サルは木に飛び移りながらおばあさんにいいました。「おばあさん。私はもういないわよ。おばあさんはひとりぼっちになったのよ。誰が手伝いをするの。おばあさんのためにご飯を作ってくれるものはもういないし、お茶を飲むにも水をくんできてくれるものはいないのよ。」そういうとサルは姿を消してしまいました。

年寄りの女は悲しみました。とても後悔しました。ああ、どうして自分の孫をぶったりしたんだろう。もうひとりぼっちになって、話し相手もいなくなってしまった。世話をしてくれるものがいなくなってしまった。

こんなわけでロテ島の人々は今でも子どもの頭をぶちません。

 


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