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ヤシの木クバヤン

テキスト提供:渡辺(岡崎)紀子さん

 

ある日のこと、クバヤンは大きなゴム園で仕事にありつきたいと思いました。そこでゴム園の監督に面 会し、樹液採取者として働きたいと申し出ました。

一日三センの賃金で彼は働くことになりました。大きくてどっしりしたゴムの樹から樹液を採るのです。クバヤンは容器をとりつけると、その下に腰をおろしました。

ゴムの樹が陽よけになり、そよ風も吹いていたので、クバヤンはすっかり夢みごこちに浸ってしまいました。

「一日三センもらうなんてすごいな。仕事が終って帰る途中ちょっと市場によって、にわとりを一羽買う。家に着いたら、それをとり小屋に入れておく。そうすれば卵を生む。おれが我慢すれば、その卵は売れる。その金で山羊を買う。白くて毛並のいいやつをだ。そしてその山羊をよく世話すればメスの羊一頭買えるはずだ。この羊はやがて次つぎと子どもを生む。そうするとこんどは牛のオスとメスを買えるお金ができる。時期がくればこの牛だって子どもを生む。するとおれは子牛も育てることになる。ちょっとまてよ。この牛が大きくなったら、肉屋に持って行くんだ。そのお金で田んぼが買える。もちろんこの田んぼにはいい苗を植えなければならない。五ヶ月もたてば、黄いろくなった稲を刈り取れる。そうして米は市場の仲買人に売るんだ。家を買うにはその金の一部で充分だろう。残りは家具や飾り物を買う。うあ、おれの財産もたいしたもんだ。次はきれいな村長の娘に結婚を申し込んで−−。七日七晩祝うんだ。そして女房を家に連れて行き、おれの財産をみんな見せてやる。見ろよ。これはみんなお前にやる宝物だよ……」とクバヤンはまるで田んぼや家や家畜を指さすように手を動かしました。すると……ああー。ゴム液の容器にぶつかってしまったのです。容器にたまっていたゴム液はあふれてクバヤンの身体にかかってしまいました。

ゴム園の監督がやってきました。そんなクバヤンを見るなり、「コラッ。ここの御主人は空想家を雇ったんじゃないぞ。今お前がこぼしたゴム液だけで五センの損害だ。」

すごすごとクバヤンは家に帰りました。仕事は首、賃金もなし、ゴム液は頭やら髪の毛やら、目や鼻までいっぱいへばりついていましたとさ。

 


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