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ヤシの木ありとこおろぎ

テキスト提供:小澤俊夫さん

 

   
 ある日のこと、ありとこおろぎが連れだって道を歩いていた。小さな川まで来るとこおろぎが言った「ありさんや、おれはこの川を跳び越えられるぜ。お前さんできるかい」。

「ぼくだってできるさ」とありは答えた。こおろぎはすぐさま跳んだ。首尾よくいった。ありもやってみた。けれども足をすべらせて、水の中に落っこちてしまった。「こおろぎくん、助けてくれ。なわでもってぼくを救い上げてくれよ」。恐ろしがってありは叫んだ。

こおろぎは走っていってつなを捜した。そこに豚がやってきた。こおろぎは言った「豚くん、たのむ、助けておくれよ。おまえさんのかたい毛を二本おくれ。川に落っこちたありを助けるために、おれはそれをつなにするんだ」。ぶたが答えて言った「まず、ココやしの実をおいらによこせ。そしたらおまえに、毛をたくさんやろう」。

急いでこおろぎは走っていって、ココやしの木を捜し出した。こおろぎは言った「おーい。ココやしさん、おれを助けておくれ。おまえさんの実をひとつ分けておくれ。そうすれば、その実を豚にやれるし、豚はかたい毛をくれる。その毛をおれはつなにして、川に落っこちたありを助けてやるんだ」。「まず、ここにとまってわしの葉を重たくしているからすを追っぱらってくれ。そしたら、お前にココやしの実をひとつやろう」とやしは答えた。

 「からすやーい。たのむから、ココやしからどいてくれないか。そうすれば、ココやしはおれに実をくれて、おれはその実を豚にやって、豚はかたい毛をくれて、おれをつなにして、川に落っこちたありを助けてやるんだ」。からすはなんと言ったと思う? 「おれはどいてやるぜ。ただしだ、おれに卵をひとつくれればな」。からすはそう言ったのだ。

こおろぎは走っていってめんどりを捜し出すと、卵をひとつくれとたのんだ。けれどもめんどりは言った「わたしにお米ととうもろこしを持ってきておくれ。そしたら卵をひとつやるよ」。

こおろぎは急いで食物蔵に行くと、お米ととうもろこしをくれとたのんだ。食物蔵は言った「まず、わしの中に巣を作っちまっているねずみを追っぱらってくれよ。そしたらお米ととうもろこしをやろう」。

ねずみは、まず牛乳をくれなければ出ていこうとしなかった。そこでこおろぎは、雌牛のところへ行って乳を少しくれないかとたのんだ。雌牛は言った「わたしにアラン・アラン草を一束ちょうだい。そしたら、しぼりたての乳を一杯あげるわ」。

こおろぎは急いで牧場へ行ってアラン・アラン草を刈った。そして束にして、それを雌牛にやった。雌牛からしぼりたての乳をもらうと、それをねずみにやった。ねずみは牛乳をもらうと食物蔵から出て行った。食物蔵からお米ととうもろこしをもらって、それをすぐにめんどりにやった。めんどりは卵をひとつくれた。こおろぎは、急いでそれをからすにやった。からすは卵を受け取ると、ココやしの木から飛びたった。ココやしの木から実をもらうと、こおろぎはそれをすぐさま豚にやった。そしてぶたはかたい毛を二、三本くれた。豚から、かたい毛をもらうと、こおろぎはちょうど一本のつなのように、それをより合わせた。

そして急いでありを助けた。つなの片方のはじを川に投げて、もう一方をしっかり握っていた。ありはつなをよじ登り、けがもせずに岸にたどりついた。「ありがとう。こおろぎくん」ありは喜んで言った。こおろぎは笑いながら答えた「どういたしまして。友だちはお互いに助け合わなくちゃね」

 


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