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ヤシの木パン・バラン・タマックと村長さん(3)

〜犬のクソを食べられますか〜

テキスト提供:守谷幸則さん

 

ある日、パン・バラン・タマックは、アナ・アグン村長さんから、村の集会所にこいとよびだされました。

村長さんによびだされるときはきまってろくなことがありません。ワナに落とそうとするか、なんくせをつけて罰金を払わせようとするかです。パン・バラン・タマックは村長さんに、してやられないように、工夫することにしました。まずパン・バラン・タマックは、かみさんに黒いもち米でおカシをつくらせました。バリでは誰でも知っている"ジャジャン・ウリ・インジン"をです。

見かけは黒くて、犬のクソにそっくりです。

できあがった"ジャジャン・ウリ・インジン"を持って、パン・バラン・タマックは、いいつけられた時間より早めに集会所へでかけました。集会所へつくと、パン・バラン・タマックは柱という柱へ"ジャジャン・ウリ・インジン"をぶらさげました。見ただけでは、それが"ジャジャン・ウリ・インジン"だと、とても思えません。

やがて村人が集まってきました。みんな村長さんとパン・バラン・タマックの仲の悪いのをよく知っています。だから今度は村長さんがパン・バラン・タマックにどんな無理を押しつけるか、みんな楽しみにしています。

パン・バラン・タマックは、村人たちのようすを見て、内心ユカイでたまりません。

でも村長さんがくるまで、笑ったりしては、せっかくの苦心が水のアワになってしまいます。

パン・バラン・タマックは、それで、しかめつらしく坐っているのです。

やっと、アナ・アグン村長さんがやってきました。あいかわらず、いばりくさった格好で席につき、何かしゃべろうとしたとき−−−パン・バラン・タマックはどなりました。

「なんだだね、こりゃ。犬のクソだ。犬のクソがぶらさがってるだ!」

そして、さも今思いついたというばかりにぐるりを見まわして言いました。

「こりゃ、犬のクソだだが、誰かひとつ食べてみないだか。もし食べられたら、おらが千ケペングやるぞ」

さあ、アナ・アグン村長さんは、人もなげなパン・バラン・タマックの言いぐさをきいて怒りました。

「こら! パン・バラン・タマック。ここがどこで、ワシが誰だと思っているんだ! じつにけしからん!
よし! パン・バラン・タマック。いっそ、お前が食ってみろ! どうだ。この犬のクソをお前が食ったら、倍の二千ケペング払ってやるぞ」

パン・バラン・タマックはいやいや席を立ちました。

ハナをつまみながら、犬のクソそっくりの"ウリ・インジン"にくいつきます。

やがてすっかり"ウリ・インジン"はなくなりました。

みんなあっけにとられています。村長さんもびっくりして、ぽかんとしたままです。

誰だって、まさか、犬のクソが"ウリ・インジン"だなんて思ってもみなかったのです。

舌づつみを打ってパン・バラン・タマックはアナ・アグン村長さんに言いました。

「どうしただかね、村長さん。おら、村長さんに言われたとおり犬のクソを食べただ。さあ、二千ケペングおくれ!」

村長さんはイヤだとは言えません。村中の人たちの前ではっきり約束したのですから、もうしかたありません。集会は終りました。パン・バラン・タマックも、意気ようようと家へ帰ってきます。

アナ・アグン村長さんは、腹の中でパン・バラン・タマックに毒づきました。

「あの程度の低い、ウスノロめ。何ということだ。また一ぱいくわせおった。
何とかやつをこらしめないと、だんだん図に乗って手に負えなくなるというのに。ワシとしたことが、どうしたことだ。まったく」

腹が立つことも立つのですが、そればっかりではありません。村長さんは不安なのです。

「やつは、ほんの冗談なのだろうが、いつもワシを皮肉ったり、ワシのいいつけをやぶったりする。そのくせ、ぬ らりくらりと言いわけして、平気な顔だ。これでは村の人たちもパン・バラン・タマックのことをしたうようになってしまう。パン・バラン・タマックワシよりものほうが偉くなってしまう。」

村長さんは何かパン・バラン・タマックを落しいれるよい方法はないかと、考えつづけておりました。

いつまでも考えつづけておりました。

 


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