パン・バラン・タマックと村長さん(2)
〜村長さんの逆襲〜
テキスト提供:守谷幸則さん
ある日、アナ・アグン村長は、パン・バラン・タマックに、こういいました。
「こら! パン・バラン・タマック! よくきけよ!
村中で狩りにいくんだから、おまえも、よく吠える犬をつれて、いっしょにくるんだ。よく吠える犬でなければだめだぞ。吠えない犬などつれてきたら、いいつけにそむいたとして罰金か禁固刑にしてやる。わかったな」パン・バラン・タマックも、犬を飼っているのですが、なにぶん小さくて、まだ走ることも、吠えることもできないのです。困ったパン・バラン・タマックは誰かから借りようと思ったのですが、誰も貸してくれません。それも当然で村長さんはパン・バラン・タマックに犬を貸してはいけないと、村中にふれて歩いていたのです。
狩りの日がきました。皆こぞって、よく吠える犬をつれてやってきました。パン・バラン・タマックは、小犬を抱きながら、一番うしろで小さくなっていました。
橋のない深い谷にさしかかったとき、パン・バラン・タマックは、はたと立ち止まりました。
小犬を抱いているために飛びこせないのです。考えて、
「パンクン トラダ ギィギィ!」(歯のねえイノシシがおるだよ!)と里言葉でわめきました。
みんながいっせいにかけよってきました。するとそこにはイノシシはおらず、パン・バラン・タマックが、
「パンクン トラダ ティティラ!」(谷にゃあ橋がねえだよ!)と騒いでいるではありませんか。
「こら! パン・バラン・タマックよ、なにを大騒ぎしておるんだ」
「ここにゃあ橋がねえだでよ。もしおらが落っこちたら、村長さんが悪いだぞ。橋をかけてくんなかった、村長さんのせいだぞ」
村長さんは、パン・バラン・タマックに騒がれたので、しかたなく橋をかけさせました。おかげで、パン・バラン・タマックは、ぶじにその谷をわたることができました。
森の奥深くで、狩りがはじまりました。
犬が放たれます。犬はイノシシや、大ジカや野ザルを追っていきました。
パン・バラン・タマックは小犬を抱いて、物かげに隠れていました。
どうすれば小犬がよく吠えてくれるでしょうか。どうすれば村長さんをだませるでしょうか。
ケトケトの茨を見つけて、パン・バラン・タマックは思いつきました。小犬をその中に放り投げます。
チクチクととげに刺されて、小犬は鳴きました。痛くて、たまらないのです。痛くて、動けないのです。小犬は鳴きつづけました。大きな声でいつまでも、いつまでも−−−よく吠える犬のようです。
パン・バラン・タマックはこおどりしながら村長さんにいいました。
「きいただか村長さん。あれがおらの犬だだよ。おらの犬が一番よく吠えるだよ」
たしかに小犬の鳴き声は森中にひびきわたります。
「これで村長さんは、もうおらのことを罪にできないだだよ。それどころか、おらに賞金さ、よこすだだ。おらの犬が一とうよく吠えるだでなあ」
村長さんはまたもパン・バラン・タマックを罪におとすことに失敗したのです。
くやしそうに、村長さんは、パン・バラン・タマックに賞金を与えました。
いや、じつに、しぶしぶ−−−