パン・バラン・タマックと村長さん(1)
〜ニワトリ騒動〜
テキスト提供:守谷幸則さん
ある日のこと、パン・バラン・タマックの家へ、村長のアナ・アグンさんがやってきて、いばっていいました。
「こら、パン・バラン・タマック! よくきけよ!
明朝、ニワトリが巣からでてきたら森へでかけるんだ。森で、アグン集会所を修理するのに使う木材を、村の衆と一緒にきりだすんだぞ。
遅刻でもしてみろ。ただじゃおかんからな。」ニワトリは夜明けごろに巣からでてきます。ところがパン・バラン・タマックのニワトリは卵をあたためていたのです。
あくる日、みんなは森へ向かいました。もちろん、その中にパン・バラン・タマックはいませんでした。どこにいたのかというと、卵をあたためているニワトリの巣の下で、のんびりすわりこんでいたのです。
ニワトリはでてきません。
パン・バラン・タマックも、でかけるけはいはありません。
お昼になりました。ニワトリがやっと巣からでてきました。
そこでパン・バラン・タマックは森へ材木をきりにでかけました。ところが森へいくとちゅうで、材木をきり終えて帰ってくる村の人たちにであうと、パン・バラン・タマックも、さっさと家へ戻ってしまいました。
パン・バラン・タマックが、森へもいかず、一本の材木もきらなかったことは、すぐにアナ・アグン村長に伝わりました。村長さんはカンカンです。すぐに村中の人をよんで集会を開きました。
"パン・バラン・タマックは、村長のいいつけにそむいた。よって罰金もしくは禁固を申しつける"
集会できまったことが、パン・バラン・タマックに言いわたされると、パン・バラン・タマックは不平をいいました。
「おら、悪いことなんかしねえだ」
「おまえはワシのいいつけを守らなかった。森にもいかず、アグン集会所の材木もきらなかった」
「いんや、そんなことはねえだ。村長さんは、きのう、おらにこういっただ。
『明朝、ニワトリが巣からでてきたら、森へでかけるんだ』ってな。
だども、おらっちのニワトリは一羽しかいねえだ。それも卵をあっためてる最中だで。おら、巣の下で巣の下でずいぶん待ってたども、ニワトリのやつはなかなかでてきはしねえ。でてきたのは、もう昼すぎで、おら、村長さんにいわれたとおり、それからいそいで森へいっただが、そん時はもうまにあわなかっただ。こんでもおらが悪いか? おらが罰をうけねばならねえだか?」みんな黙ってしまいました。村長さんも腹立たしいのと、情けないのと、くやしい気持のまま、
「おぼえていろ! パン・バラン・タマックめ! いつか、ひどい目にあわしてやる」と、
つぶやきながら自分の家へ帰っていきました。