<バリの民話> 前のお話 次のお話

ヤシの木ラレ・アンゴン

   〜絵描きの災難〜

バリ語テキスト提供:I Made Sutjaja(イ・マデ・スチャヤ)教授

 

むかし、ラレ・アンゴンという名の若者がいました。彼の仕事は、両親の牛を世話することでした。同じ年頃の友達と一緒に、村からそう遠くはない牧草地まで毎日行って、牛に草を食べさせていました。

ラレ・アンゴンは、地面に人の絵を描くのが好きでした。彼の友達も、ラレ・アンゴンには芸術の才能があると思っていました。ある日彼は若い女の人の絵を描きました。その絵はとてもかわいく仕上がったので、消してしまうのはもったいないと思いました。みんなに見てもらえるように、この絵は消さないで残しておきました。彼はその女性に、ルバン・クリという名前をつけました。彼の友達はみな、その女性の美しさに驚きました。

彼らが牛に草を食ませている牧草地を、王様が偶然とおりかかりました。王は絵を見て、そこに描かれた女性の美しさに惹きつけられました。王はそこにいた少年たちに、誰がこの絵を描いたのかと尋ねました。少年の一人が、ラレ・アンゴンが描いたと答えました。王はラレ・アンゴンを召して尋ねました。「おまえがあの絵を描いたのか?」「そうです、陛下」とラレ・アンゴンは答えました。「この女性をおまえはどこで見たのだ?」王はまた尋ねました。「私は彼女を見たことはありません、陛下。想像で描いたのです」というのがラレ・アンゴンの答えでした。王はラレ・アンゴンの言うことは信じず、彼にその女性を探してくるよう命じました。

ラレ・アンゴンは、とても悲しい気持ちで家に帰りました。彼の母親も、その話を聞いて悲しくなりました。その夜ラレ・アンゴンは、例の難題を抱えたままベッドに入りました。夢の中で、彼は老人に会いました。彼は老人から、ルバン・クリを見つけたければ北東の方角へ行けと教わりました。翌朝目覚めると、彼はすぐに母親のもとに行きました。そして夢の内容を話し、明日の朝にルバン・クリを探しに旅に出ると言いました。すると母親は旅の準備をすべてやってくれました。

話を少し省略しましょう。ラレ・アンゴンは、森の中にある隠者の住まいにたどり着きました。ルバン・クリを探している途中だという話をすると、隠者はラレ・アンゴンを養子にしました。その隠者には娘が一人いましたが、娘には友達がいませんでした。ラレ・アンゴンはしばらくの間そこに留まっていましたが、結局その娘と結婚しました。

それからしばらく隠者の家で生活しているうちに、ラレ・アンゴンはルバン・クリ探しのことを忘れていましたが、そのことを思い出させたのは義父である隠者でした。「この女性を探すのは、危険な仕事じゃ」と隠者はラレ・アンゴンに言いました。「しかしくじけるでないぞ。わしはおまえに魔法の力を授けよう。きっと役に立つぞ」ラレ・アンゴンは魔法の力を授かりました。

ルバン・クリは丘の頂上に住んでいました。その丘は蛇やトラや巨人で守られていましたが、魔法の力のおかげで、ラレ・アンゴンは無事にたどり着くことができました。彼はルバン・クリに、ルバン・クリを連れてくるよう王に命令されたということを話しました。ルバン・クリはラレ・アンゴンについていくことを承知しましたが、丘を下っていくのは危険だと言いました。ラレ・アンゴンもそのことを思い出しましたが、自分には特別 な力があると彼女に教えました。

二人は丘を下っていきました。途中、毒蛇に遭遇したりしましたが、魔法の力のおかげですべてやっつけることができました。最後に、強暴な巨人に遭遇しました。彼らは二人を殺す気満々でした。二人はがんばって逃げましたが、つかまりそうになりました。しかし幸運なことに、ラレ・アンゴンに残された最後の魔法の力で、巨人を殺すことができました。巨人は大きな炎に包まれて、焼け死にました。

すぐに二人は隠者の家へ戻りました。隠者とその娘は、二人に会えて大変うれしがると同時に、ルバン・クリの美しさに目を瞠りました。すぐに、ラレ・アンゴンと妻とルバン・クリの3人は、村へ行ってもいいか尋ねました。隠者は快諾しました。

また、話を省略して先に進めます。彼ら三人は、無事に家に着きました。ラレ・アンゴンの母は、彼らを見て大変喜びました。王は彼らが到着したと聞いて、すぐにラレ・アンゴンを呼び寄せました。翌朝ラレ・アンゴンはルバン・クリと一緒に宮殿に向かいました。王はルバン・クリの美しさを見て驚き、恋に落ちてしまいました。しかし王はラレ・アンゴンの魔法の力に対して嫉妬していたので、彼が自分の敵となり、自分の地位 を脅かすのではないかと考えました。王は彼を片付ける筋書きを考えました。そこで王は、ラレ・アンゴンに、明日の朝にトラを宮殿につれてくるよう頼みました。

ラレ・アンゴンは非常に悲しい気持ちで家に戻りました。帰る途中で、王はなぜ自分に酷なことをするのだろうと不思議に思いました。「王は自分に無理難題をふっかけてきている……」妻は夫が悲しそうな顔をしているのを見て尋ねました。「あなた、どうしてそんなに悲しい顔をしているの?」「王様がぼくに、明日の朝宮殿にトラを連れて来いと言うんだ。でもそんなの無理だよ」「心配しないで、あなた」と妻は応えました。彼女は父に教えてもらった魔法の呪文を唱えました。「アブラカダブラ、出でよトラ!」巨大なトラが、すぐに目の前に現れました。

翌朝、ラレ・アンゴンはトラに乗って宮殿に向かいました。トラに乗ったラレ・アンゴンを見るとみんな逃げ出しました。彼は王が待っている宮殿にまっすぐに向かいました。王はラレ・アンゴンが大きなトラに乗っているのを見るとガタガタと震えだし、遠くにやってしまうように命令しました。ラレ・アンゴンはトラに乗って家に戻りました。妻はそのトラを、魔法ですり鉢にしました。

王はいらいらしていました。王はラレ・アンゴンを召して、ドラゴンを宮殿につれてくるように命じました。ラレ・アンゴンは妻に王の命令を伝えました。今度はドラゴンを連れて行かなくてはなりません。妻は魔法の力でドラゴンを出しました。ラレ・アンゴンは翌朝ドラゴンに乗って宮殿へ向かいました。門をくぐるときにドラゴンのしっぽがぶつかって、門は壊れてしまいました。宮殿にいた人々はみな逃げ惑いました。王は、頭にラレ・アンゴンを乗せたドラゴンを見ると震えだし、安全な場所に隠れました。ラレ・アンゴンは、王が自分に向かってこう叫ぶのを聞きました。「こいつをもといた場所に戻してこい!」ラレ・アンゴンはドラゴンに乗って家に帰りました。妻はドラゴンを魔法の力ですりこぎにしました。

王はまだあきらめませんでした。今度はラレ・アンゴンに、スズメバチの巣を持ってくるように命じました。今度も、妻は夫を助けました。妻は魔法の力でスズメバチの巣を出しました。ラレ・アンゴンは大きな巣を手に抱えて、宮殿に向かいました。王は、今度は危ないことはないだろうと思い、近づいてちょっと見てみようと思いました。ラレ・アンゴンが巣を手渡すとすぐ、たくさんのスズメバチが巣の中からブワッと出てきました。ハチはみな攻撃的で、王はたくさんハチに刺されました。宮殿のものはみなパニックになり、荒れ狂ったハチを追い払うのに必死でした。ハチに刺されて気を失っている王の介抱をするものもありましたが、すべては無駄 に終わり、王は死んでしまいました。

この悲劇のあとすぐに、ラレ・アンゴンは人々から王に推されました。ルバン・クリはというと、新しい王が彼女を娶りました。

 


前のお話  ▲トップ▲   次のお話