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ヤシの木金のきゅうり

   〜巨人にさらわれた娘〜

バリ語テキスト提供:I Made Sutjaja(イ・マデ・スチャヤ)教授

 

むかしむかしあるところに,ひとりの未亡人がおりました。彼女には,クティムン・マスと呼ばれるひとり娘がいました。クティムン・マスというのは,金のきゅうりという意味です。娘は若くてかわいい10歳の女の子でした。ふたりは村の西側の,ダウ・イェと呼ばれる森の近くに住んでいました。このあたりに住む者はあまりいませんでした。だいたいが,小作や商人,そして家畜でした。

ある日,娘の母親は食料を買いに市場へ出かけました。家にはもう食べる物がなかったからです。出かける前に,母親は娘に言いました。
「かわいいクティムン・マス,お母さんは市場に行ってくるから,お留守番をしていてちょうだい。パンケーキを買ってきてあげるわね。絶対に外には出ないで家にいるのよ。ドアにも鍵をかけてね。お母さんが帰ってくるまでは,誰かが来ても絶対にドアを開けてはだめよ」

クティムン・マスはひとり家の 中に閉じこもっていました。突然,巨人が家にやってきて,低く恐ろしい声で娘の名前を叫びました。
「クティムン・マスや,ママが帰ってきたわよ。ドアをあけてちょうだい」
巨人は娘の母親の声をまねてしゃべりました。クティムン・マスは用心深く,それが母親の声ではないとわかったので,ドアは開けませんでした。巨人は長いことドアが開くのを待っていましたが,家には誰もいないと思って帰っていきました。

それからしばらくして,母親が帰ってきて,娘にドアを開けるように頼みました。クティムン・マスは母親の声だとわかったので,ドアを開けました。娘は母親に,ついさっきあったことを話しました。
「わたし本当に恐かったのよ,おかあさん」
母親は娘の恐怖をやわらげようと,約束してあったパンケーキをあげました。そして娘に尋ねました。
「誰がおまえを呼んだかわかるかい?」
娘は巨人が呼んだのだと言いました。母親は,自分がいないときは絶対に家から出てはならないということを,よくよく娘に言ってきかせました。巨人は娘をさらうつもりなのです。娘は母親に,言い付けを守ることを約束しました。

母親が市場に行っている間,巨人はまたやってきました。しかし娘の家に着く前に,巨人はあひるを連れた若者に会いました。巨人は若者に近付いていきました。それに気付いた若者は恐怖で震え上がりました。巨人は若者にクティムン・マスの家についてくるように言いました。若者は断りましたが,巨人は彼を脅して承諾させました。

話を先に進めましょう。ふたりは家に行きましたが,誰もいないようでした。若者は,母親の声をまねてクティムン・マスの名前を呼ぶように言われました。今回はとてもよく似た声で,クティムン・マスは疑いもしませんでした。娘がドアを開けるとすぐ,巨人は若者と娘を抱えて遠くに行ってしまいました。娘は泣き叫んで助けを求めましたが,誰も耳にも届きませんでした。

母親が家に帰ってきました。家の中に娘がいないのを見て母親はあらゆるところを探しましたが,徒労に終わりました。母親は娘の名を呼びましたが返事をする者はありませんでした。母親は,娘は巨人につれさられたのだと確信しました。
「どうしたら娘を取り返せるだろう?」
と母親は考えました。母親が考え込んでいる間に,ネコとネズミが近付いてきました。母親はネコとネズミに尋ねました。
「かわいいクティムン・マスを見つけだすのを手伝ってもらえないかしら? もし見つけてくださったら,お礼に魚をお米をあげましょう」
ネコとネズミは喜んで手伝うことにしました。彼らはすぐに巨人の家に行きました。クティムン・マスは大きな木の箱に閉じ込められていて,その箱は目の見えない人と,耳の聞こえない人とが番をしていました。巨人はといえば,台所で調味料を忙しく準備していました。

箱の中にクティムン・マスがいるとわかったので,ネズミは穴を掘り,ネコは箱の上に座りました。ネズミが穴を掘る音が,目の見えない番人の耳に入りました。
「何の音だろう?」
ネコは番人に向かってニャアニャアなきました。耳の聞こえない番人は,箱の上にねこがいると言いました。目の見えない番人はおっぱらえと言いましたが,耳の聞こえない番人には聞こえませんでした。

さあ,クティムン・マスが逃げられるくらい大きな穴ができあがりました。ネズミとネコに伴われて,クティムン・マスは急いで家に逃げ帰りました。母親はたいそう心配しながら娘の帰りを待っていましたが,ネコとネズミと一緒のクティムン・マス見て安心しました。約束通 り,ネコとネズミはお礼を受け取りました。めでたしめでたし。

 


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