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言語研修修了生の参加報告 Vol. 1

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「言語研修のその後: フランス語圏アフリカ手話(LSAF)の地カメルーンでの気づき」

京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
戸田美佳子
(2008年度言語研修「フランス語圏アフリカ手話」修了)

「ろうコミュニティの中で、コミュニケーションとれるように、(カメルーンに来る前に)LSAFを勉強しておくように。じゃ、またね。」

言語研修を終了して三ヶ月後、私はフィールドワークのため、カメルーンに行くことになった。LSAFの手話講師であるエブナさんに この旨を伝えると、カメルーンのろう者を紹介するよと温かい内容のなかに、しっかり最後に講師からの一言を添えたメールを送ってくれた。
これまでカメルーンに調査で訪れたことがあり、三度目である。今回、エブナさんはもちろん、以前知り合った、あるろうの少女Aさんの家族と 友達に会いたいという想いを持ち日本を発った。

前回の調査中、お世話になっていた女性が、地域の女性たちと学校の一室を借りて洋裁をしており、私も何度か手伝いにいっていた。 そこで三人のろうの少女と出会った。その内の一人が、Aさんだった。洋裁が得意でない私と洋裁を始めたばかりのAさんは、よく簡単な 裁断作業を任された。手話を知らない私と読み書きを習っていないAさん。手話も筆談もできず、ジェスチャーと簡単な絵を使ってなんとか 二人で作業をしていた。きっとAさんは最後まで私が何をしにカメルーンに来ているのか知らなかったのではないかと思う。
LSAFの募集案内をみたとき、彼女たちが頭に浮かんだ。LSAFを習得して、今度こそ自分が何者であるかを伝えたい、また私も彼女たちを 知りたいと思った。しかし、東京での言語研修中にAさんの訃報がカメルーンから届き、その願いは叶わなかった。

カメルーンに到着してすぐ、現像したAさんの写真を持ち彼女の家を訪れた。彼女の友達のろう者と話をしていくなかで、はじめて 私はAさんがどのような人だったのかを本当の意味で知ったと思う。それは遅すぎたけれど…。
今回のカメルーン滞在中、エブナさんが説教をするろうコミュニティのミサに毎週日曜に顔を出し、調査でカメルーンの地方の村にいく時は ろう学校を訪ねることができた。
Aさんの友達のろう者やエブナさんを通してカメルーンのろうコミュニティと関わるようになってから、街中でろう者に話しかけられることが 多くなった。資料を収集にいった役所で公務員のろう者に、市場で野菜売りのろうの女性商人、そして路上でランニングしているろうの スポーツ少年。毎日誰かと手話でおしゃべりをしている自分がいた。同じ場所、同じ人びとの中にいるのに、LSAFを学ぶ以前の二回の カメルーン滞在中、私はろう者がどのように生活を営んでいるのか知らなかった、それ以上に街中にいるろう者の存在にも気づいてなかった。 これまでの私には見えていない世界、というより私が見てこなかった世界が同じ空間にあることにはじめて気づいた。

LSAFを学んだ今、やっと私はAさんを知った。Aさんと分かり合うことはできなかったけれど。そしてカメルーンのろう者を知りはじめたと思う。 もちろん、彼、彼女たちの置かれた状況、社会がわかったわけではない。いつか関係を紡ぎたいという想いを胸に、関わり続けようと思う。

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写真左:カメルーンの祝日「女性の日」に、ろう者女性たちとパレードに参加。前列右から二人目が筆者(2009年3月8日、戸田氏撮影)
写真右:カメルーンの首都ヤウンデのろう者のサッカークラブ(2008年11月29日、戸田氏撮影)


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