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アゼルバイジャン語 報告

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研修期間
2022年8月22日(月)~2022年9月13日(火)
午前10時00分 ~ 午後4時30分(土曜日,日曜日は休講)

研修時間
85時間

研修会場
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所
(〒183-8534 東京都府中市朝日町3-11-1)

講師
主任講師:
吉村 大樹(よしむら たいき)東京外国語大学AA研フェロー
ネイティブ講師:
Kamala Guliyeva(カマラ・グリエヴァ)

受講料
51,000円(教材費込み)

教材
1.『アゼルバイジャン語文法教本』(吉村 大樹,Kamala Guliyeva著)
2.『アゼルバイジャン語会話・聴解』(アイダエヴァ・ザリファ,吉村大樹 著)

文化講演
  • 日時:2022年9月2日(金)
  • 講演者:吉村 大樹(東京外国語大学AA研フェロー)
  • 日時:2022年9月8日(木)
  • 講演者:廣瀬 陽子(慶應義塾大学)

講師報告

1. 研修の概要 詳細

○研修期間:
2022年8月22日(月)~2022年9月13日(火)
午前10時00分 ~ 午後4時30分(土曜日,日曜日は休講 )
○研修時間:
85時間
○研修会場:
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所所 マルチメディア室(304)

本研修は2022年8月22日(月)から2022年9月13日(火)までの17日間,1日あたり5時間,合計85時間実施した。
会場は,東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所(304室)を利用した。

2. 講師 詳細

○主任講師:
吉村 大樹(よしむら たいき)東京外国語大学AA研フェロー
○ネイティブ講師:
Kamala Guliyeva(カマラ・グリエヴァ)
文化講演者:
吉村 大樹(東京外国語大学AA研フェロー),廣瀬 陽子(慶應義塾大学教授)

3. 教材 詳細

  1. 『アゼルバイジャン語文法教本』(吉村 大樹,Kamala Guliyeva著)
  2. 『アゼルバイジャン語会話・聴解』(アイダエヴァ・ザリファ,吉村大樹 著)

1.『アゼルバイジャン語文法教本』は レイアウト,各課の文法項目の選出,解説,練習問題の作成を吉村が担当した。Guliyevaは全体のアゼルバイジャン語の例文のチェック,また巻末の読解用文章の作成を担当した。同教材は既存の文法書に対して各課ごとに練習問題がついている点,また扱う項目が広範囲におよぶ点で優れていると自負している。また巻末の読解問題は残念ながら研修中にはほとんど扱えなかったが,今後オープンの教材として広く使用されるであろうことを考慮して,一通り文法事項を押さえた後の語彙力の強化,学習内容の確認を行うのに適していると評価できる。同読解問題は,共著者のGuliyevaによるオリジナルの文章であり,類書によく見られる現地教科書の文章の引用ではないという点にも注目してほしいところである。
2.『アゼルバイジャン語会話・聴解』については研修中のシラバスおよび時間割の関係上一部のみの使用となったが,文法の解説および演習問題への筆記の解答で単調になりがちになることを想定して,機を見て同教材を使用するという方法をとった。同教科書のような会話スキットが用意され,かつ音声資料も伴う日本で出版された教科書は報告者の知る限りこれまで存在しなかった点で画期的なものであると言えるだろう。また,会話文の内容も筆頭著者のアイダエヴァがより自然なアゼルバイジャン語での会話であることを意識して作成されている点で優れていると言える。

4. 受講生詳細 詳細

受講生は5名で,本学学部生3名,他大学大学院生1名,他大学学部生1名であった。
受講動機は各自さまざまであったが,全員トルコ語,ウズベク語などすでにテュルク諸語のうち一つまたはそれ以上の学習経験があったようで,本研修での学習にそれらの知識が相当程度に有効にはたらいたように見受けられる。受講生の動機としては彼らがすでに学習したテュルク諸語との類似点と相違点を知りたいという関心が多かったようであるが,旧ソ連地域としてアゼルバイジャン,あるいはコーカサス地域への関心から受講を希望した方もおられた。

5. 文化講演 詳細

【1回目】2022年9月2日(金)
講演者:吉村 大樹(東京外国語大学AA研フェロー)
【2回目】2022年9月8日(木)
講演者:廣瀬 陽子(慶應義塾大学)

1回目は9月2日,講師の吉村が「アゼルバイジャン語の基礎知識と周辺知識」と題してアゼルバイジャンの地域的な基礎情報をはじめとする現代アゼルバイジャンの概況,および国家成立までの大まかな歴史,また2021年12月に講演者が本研修の準備のために渡航したときに撮影したバクー市内等の写真を提示し,現代アゼルバイジャンの風景についても受講生に提示し,学習動機の向上を図った。さらに20世紀以降の正書法の変遷などについて解説を行った。受講生からは特にアゼルバイジャン語のキリル文字表記,アラビア文字表記についての反応がよく,レアリア資料として準備していた当時の雑誌に関心をもつ受講生が多かったのが印象的であった。

2回目の文化講演は9月8日,オンライン(ウェビナー)で慶應義塾大学の廣瀬陽子先生に「第二次ナゴルノ・カラバフ戦争:アゼルバイジャン外交から地域問題へ」というタイトルでご講演を賜った。アゼルバイジャンは南コーカサスに位置し,近年ではアルメニアとのナゴルノ・カラバフをめぐる衝突がたびたび起こっていることが報道などでもよく知られているところである。この衝突の背景には近代以降どのような歴史的経緯が背景にあったか,また現代の両国間の衝突に関してどのような周辺諸国,あるいは関係国の関与があるか,ロシアとウクライナとの戦争とどのような連動性,関係性があるかに加えて,今後の世界情勢の見通しについてもご見解を伺えるという,広範囲な地域,研究分野にわたる内容のご講演を賜った。本講演は上述の通り,公開でのウェビナー開催という方式をとったこともあり,参加者も20名を超えるという盛況であった。本研修の受講生だけでなく,一般参加の方からも講演者に対して多くの質問やコメントがあり,活発な質疑応答が行われた。

6. 授業 詳細

授業は基本的に上述教科書1を使用し,文法の解説を主に吉村が担当し,Guliyevaは発音,会話の演習および例文のニュアンスの解説を担当した。
第1週目は文字と発音の対応関係からスタートし,母音調和,名詞・形容詞述語文と副詞についての解説を,第2週目は動詞の基本的なテンス・アスペクトの語形変化と名詞の格語尾の解説を,第3週目以降に義務形,仮定形などのムード・モダリティが関連する形式,および形動詞,副動詞の文法的なふるまいと複文・重文についての解説と演習を行った。受講生の疲労度と時間帯等を考慮し,単調な授業展開にならないように機を見て教科書2を使用し,聴き取りと解説,会話練習などを行った。

7. 研修の成果と課題 詳細

本研修では前述教科書(1)の内容について文法の解説および練習問題の解答,解説をほぼ網羅できた。研修のシラバスとそれに伴う時間割にもほぼ対応でき,当初の目標はほぼ達成したと評価してよいであろう。受講生の研修中の反応もよく,期間中は内容について鋭い質問がたびたび飛んでくるほどで,講師の吉村自身が勉強になったことも多かった。受講生の多くが今後コーカサス地域に関わる研究や現地での活動に従事する日が来ることを心より願うところである。また,受講生各位にはこの機会にアゼルバイジャン語以外のテュルク諸語にも今後さらに関心を持ってくださることを願っている。
一方,使用教科書には研修中にさまざまな修正すべき点が見つかったこと,また解説が不足している部分が見つかったことが大きな課題として残った。後付けになってしまうが,事前のより綿密な準備ができていればまた少し違った結果になっていたかもしれないと反省するところである。教材の加筆・修正は今後の課題ということでご了承いただければ幸いである。また,会話と聴解の演習にももう少し時間を割く必要があったかもしれない。限られた時間内での検討内容ではあったが,これについても読む・書く・聴く・話すといった言語能力のバランスをどうとっていくかを検討することは,今後の課題である。

8. おわりに 詳細

上記の通り,研修中は使用教科書中のタイポに加えて講師自身の理解が不足していた項目もあり,その点を受講生の各位からご指摘を受けた。報告者の同言語担当講師としての力量の不足を恥じると同時に,自分自身の勉強として大いに役立ったということをまず正直に申し上げておきたい。この点も含めて,受講生の協力的な姿勢と学習意欲には大変助けられたという思いである。各受講生の出席率も概して高く,一部受講生の方がやむなき事情で欠席した以外はほぼ全員がほぼ毎時間出席してくださった。改めて,長期間の研修に根気強くおつきあいくださり,貴重な時間を割いてくださった受講生各位に心よりの謝意を表したい。
また教材作成にあたっては今回現地から招へいしたGuliyeva先生をはじめとして,上記教科書2の作成に携わってくださったアイダエヴァ・ザリファさん,同教科書に付随した音声資料の作成にあたってはアセフ・ケリムリさんにもご協力を賜った。両名にも心よりの謝意を表する。

最後に,アゼルバイジャン語でGuliyeva先生をお迎えくださったAA研所長の星泉教授,本研修企画の段階からAA研言語研修委員会の委員長であった塩原朝子教授,および2022年度から同委員会の委員長をお務めになっている品川大輔准教授には大変お世話になりました。また塩原教授をはじめとする言語研修委員の皆様,研修中に激励にいらしてくださった同研究所の山越康裕准教授,児倉徳和准教授の各位にも大変お世話になりました。研修中の事務手続き,アゼルバイジャンから本研修のために来日したGuliyeva先生のビザ手続き,滞在中の生活のお世話といった諸事については,藤井麻利様をはじめ AA 研共同研究係の皆様に大変お世話になりました。この場を借りて,みなさまに心よりの御礼を申し上げます。

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