1. 研修の概要 詳細
研修期間: 2015年8月17日(月)~2015年9月4日(金) (土日は休講) 研修時間: 100時間 研修会場: 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所 本研修は2015年8月17日(月)から2015年9月4日(金)までの平日15日間,1日あたり基本7時間(午前4時間,午後3時間。ただし金曜日は午後2時間,最終日は午後1時間),合計100時間実施した。
会場は,アジア・アフリカ言語文化研究所マルチメディアセミナー室(306)を利用した。
本研修で扱う古ジャワ語は,写本・刻文に記録された文章語であるため,研修では,会話の練習時間は設けず,文法の解説とテキストの読解練習を中心とした。また,外国人講師としては,インドネシアの旧宗主国であり,古ジャワ語研究が進んでいるオランダから専門研究者であるモーレン氏を招聘した。当初の予定では,外国からの受講生参加の可能性も想定していたため,モーレン氏の研修は,教材および講義ともにすべて英語で実施された。しかし,実際には,受講生はすべて日本人であっため,日本人講師による講義および文化講演では日本語を使用した。日本人講師は適宜モーレン氏の説明を日本語で補足したり,参考資料の提示をおこなうなどして講義進行の円滑化をはかった。
2. 講師 詳細
- 主任講師:
- 青山亨(東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授)
- 講師:
- 菅原由美(大阪大学大学院言語文化研究科准教授)
- 山﨑美保(東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程 大学院生)
- 外国人講師(専門研究者):
- Willem van der MOLEN (Senior researcher, KITLV/Royal Netherlands Institute of Southeast Asian and Caribbean Studies)
- 文化講演者:
- 深見純生(桃山学院大学)
- 肥塚隆(大阪大学名誉教授)
- 青山亨(東京外国語大学)
3. 教材 詳細
- 『An introduction to Old Javanese』 (Willem van der MOLEN)
第1部Textbookは文法の解説,第2部Primerは読本からなる2部構成である。別冊としてTextbookとPrimerで使われる単語の意味を英語で説明した単語集Wordlistが付随している。さらに,研修の進行にあわせて,モーレン氏から随時,補足解説Supplementが配付された(Supplement 11まで)。本教材は,Zoetmulderのオランダ語とインドネシア語による標準的な古ジャワ語文法書を基礎としつつも,初心者の利用を念頭にモーレン氏の独自の判断で基本事項から難易度の高い事項へと進むように配列した古ジャワ語文法入門書である。第2部の読本には『マハーバーラタ』(第1巻アーディパルワ)から散文のテキスト,『ラーマーヤナ』から韻文のテキストが選ばれており,古ジャワ語文学作品の典型的な特徴を知るのに適切な内容となっている。現在のところ英語で書かれた唯一の古ジャワ語入門書であり,本教材の作成の教育的意義はきわめて高い。
なお,刻文史料について講義した山崎氏は,古ジャワ語刻文を読むための文化的社会的説明と刻文テキストからなる教材を別途作成して使用した。
4. 受講生詳細 詳細
受講生は日本人6名,うち男性4名,女性2名であった。本学大学院生1名以外はすべて社会人であった。女性1名以外は,いずれも分野は異なるがインドネシアまたは東南アジアにかかわる研究に携わる研究者であった。研究につながる言語を受講するという動機があるため,仕事との時間調整に追われるなかでも出席状況は良好であり,最終的には6名全員が無事に修了した。
5. 文化講演 詳細
第1回文化講演(公開):8月21日(金)14時~16時。深見純生「ジャワの中心性―歴史と生態学」
第2回文化講演(公開):8月28日(金)14時~16時。肥塚隆「ボロブドゥルとプランバナン―中部ジャワの二大建築」
第3回文化講演(非公開):9月3日(木)14時~16時。青山亨「ジャワ世界とインド文化―プランバナン寺院のラーマーヤナ浮彫を手掛かりに」3回の文化講演はいずれも,古ジャワ語の文献が生み出された時代(5世紀~15世紀のほぼ一千年)のジャワ社会を理解するに資するテーマであった。深見講演は,前半では生態学的にみたジャワの豊かさを示し,後半では生態学的観点から漢文史料に現れるジャワの特徴を解説した。肥塚講演は,多数の写真を紹介しながら,インド文化の影響を受けたジャワの寺院建築や浮彫が質においてインドと比肩するものであること,様式においてインドの伝統に忠実な側面とジャワ独自の要素が顕著な側面があることを解説した。以上の2講演は公開講演であり,受講生以外にも多くの参加者があった。最後の青山講演は,プランバナン寺院の浮彫と,古ジャワ語写本を初めとするテキストに伝承される『ラーマーヤナ』を比較することで,当時のジャワ社会における精霊信仰に基づいた生死観を明らかにしようとした。いずれの講演も受講生は熱心に聴講し,質問も活発に出された。
6. 授業 詳細
最初の6日間では文法が講義された。基本的に,午前中に文法の講義をおこなったあと,受講生は各課に付された練習問題(古ジャワ語テキストの翻訳)に取り組み,午後の時間を使って受講生の解答に基づいて質疑応答を繰り返すというパターンでおこなわれた。残りの9日間では,基本的に,午前中に読本のテキストの翻訳に受講生が取り組んだあと,山崎氏による刻文の講義をおこない,午後の時間を使って受講生のテキストの翻訳に基づいて質疑応答を繰り返すというパターンでおこなわれた。また,適宜,補足解説Supplementに基づいた講義がおこなわれた。
なお,受講生の大部分が社会人ということもあり,講義時間外での予習復習の時間を取ることが困難なため,練習問題や翻訳への取り組みは基本的に研修の時間内でおこなってもらった。
7. 研修の成果と課題 詳細
今回の研修は,恐らく日本で初めての本格的な古ジャワ語研修という画期的な研修であった。受講生の全員が古ジャワ語の知識は皆無の段階から開始したが,研修終了時には,文法項目すべての学習を完了するとともに付随する練習問題を解き終わり,さらに,読本のうち『マハーバーラタ』から選ばれたテキスト全部と『ラーマーヤナ』から選ばれたテキストの半分を読み終えることができた。『ラーマーヤナ』から選ばれたテキストのうち後半は,時間切れのため読むには至らなかったが,習得した古ジャワ語のレベルは十分に当初の予定に到達したと言ってよいであろう。受講生からの感想も,一様に,充実した内容であり,得るところが多かったという肯定的なものであった。また,研修期間中の受講生間での情報の交換も大変に有益であった。
本研修が成果を出すことができた一因として,受講生の多くが古ジャワ語と同系統のオーストロネシア語族の言語に親しんでいたこと(インドネシア語,チャム語など),古ジャワ語に大量の借用語があるサンスクリット語に通じた受講生もいたことが挙げられる。
また,本研修は英語による講義が中心であったが,モーレン氏の英語が明快であったこと,日本人講師による補足もあり,いずれの受講生も大きな問題を抱えることなく受講を続けることができた。これは,受講生のレベルが担保されているという条件のもとでであるが,今後,英語による語学研修をおこなう可能性に道を開いたと言ってよいであろう。
8. おわりに 詳細
100時間というきわめて長時間の集中講義であったが,受講生はいずれも体調を崩すこともなく,また集中力を切らすことなく受講し,最終的に全員が修了にいたったことは大変に喜ばしいことである。本研修が成功裡に終了するまでに,裏方として準備と運営に携わったすべての方々に感謝の意を表したい。また,今回は古ジャワ語を対象とした研修であったが,ジャワ語の文献としてはさらに現代ジャワ語による文献が豊富に存在する。近い将来に現代ジャワ語の研修が開講されることを切に望むものである。
(青山亨)
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