「地域研究の方法と中央アジア ―イスラーム、オリエンタリズム、比較政治―」
まず、近現代中央アジアにおけるイスラームの位置について論じた。特に、ソ連時代にアイデンティティの基軸が宗教ではなく民族に変わったこと、ソ連崩壊後のイスラーム運動はムスリムの連帯よりも分裂につながっていることを指摘した。
次に、中央アジア研究におけるオリエンタリズム論の可能性を検討した。中東が植民地支配やパレスチナ問題をめぐって欧米と対峙してきた歴史を、中央アジアは共有しない。またソ連でのロシア人と中央アジア人の関係は典型的な支配・被支配ではなく、オリエンタリズム論の単純な適用はできない。しかしロシア帝政の異民族観や、ソ連期以降の「文明」意識の複雑な内面化を考察することは、オリエンタリズム論の修正・発展に寄与するだろう。
最後に、民主化が世界の趨勢だという言説に反し、中東と中央アジアの多くの国が権威主義体制の維持に「成功」していることから、両地域の政治体制を比較する可能性を提起した。全体として、素朴な「イスラーム世界一体」論を排したうえでムスリム地域間の比較を行う必要性を説いた。
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