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教育セミナー >> 2005年度感想・報告 >> 幸加木文
2005(平成17)年度
幸加木文(東京外国語大学大学院地域文化研究科)
糧となる経験

作家・阿刀田高氏による「たった一人の聴衆」というエッセイがある。多数を相手に発せられるメッセージが、結果としてたった一人にだけ切実に届くことがあるという微妙なコミュニケーションの存在について述べているものである。今回、教育セミナーを受講しながら常に私の意識の底にあったのは、自分はその「たった一人の聴衆」たりえているかということであった。

 台風接近の足音を聞きながら始まった2005年度「中東・イスラーム教育セミナー」は、中東およびイスラーム地域において様々なフィールドとご専門を持つ先生方が、それぞれ数十年に及ぶ研究のエッセンスを紹介しつつ、研究における視点や現状の問題点などを1時間で講義し、その後に1時間の質疑応答をするという形式で、4日間開催された。

 前々から楽しみにはしていたが、期待以上に充実したセミナーであった。紙幅の都合上、内容には触れないが、多くはどこか重そうな口調で始められる講義が、話が進むにつれて熱を帯びてくる。講義内容は多岐に渡り、どれだけ十全に理解できたかは分からないが、新たな知見や視座に接するとともに、研究に対する情熱や熱意もよく伝わってきた。また質疑応答では、研究対象にいかにアプローチするかという、自分にとって切実かつ直球な問いをも正面から受け止めてくださり、数々の得難い示唆を返球していただいた。

 さらに、先生方による講義に加えて、受講者のうち応募段階で希望した人のみが研究発表を行った。彼らが受けていた種々の指摘や批判を、自分も当事者のように(慄きつつ)聞いていた。それは自己の研究の軸が定まっていないことの証左でもあろうが、まさに「教育」に資するコメントが相次ぎ、刺激的かつ貴重なやり取りが身に沁みた次第である。しかし一方で、たとえどんなに勉強不足が露呈しようとも、これだけ多彩な先生方、学生の皆さんの前で自己をさらす経験、つまり自分の研究発表は、買ってでもするべきではなかったか。博士前期課程(修士課程)1年目の現時点で受ける批判や指摘は、すべて今後の糧になっただろうと今は思っている。

 以上が「感想」である。またその立場にはないと思うが、若干の「評価」を付記させていただく。

 初年度ということで実施にあたり試行錯誤がなされたようであるが、開催案内から選考過程、そして当日の運営・進行に至るまで様々な配慮とサポートが行き届き、受講者の一人としては何ら不安なくセミナーに集中することができた。セミナーの成否は、受講する個人が、提示され与えられたものをいかに貪欲に獲得し吸収するか、どれほど真剣な姿勢で臨むかにも大きく関わってくるものであろう。次年度以降も継続的に開催される見込みとのことであるので、今後受講を検討される方にとっても「たった一人の聴衆」として自身に切実に響く知見が得られる機会となるかもしれない。小文も何らかの参考になれば幸いである。

 最後に、セミナー実施にあたり、先生方はじめスタッフの方々が払われたご尽力とご配慮に対し、深く感謝申し上げたい。
 

 

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