本セミナーについては、その母体となる中東イスラーム研究教育プロジェクトの開始時からホームページやパンフレットを通じて知っており、また、歴代の受講生の皆さんの感想から読み取れる大きな満足感も手伝って博士論文の執筆に取りかかる時期が来たら自分も是非とも参加してみようと思っていました。ただ、私は元来引っ込み思案で、このような歴戦の強者が集う場で自分の研究をうまく伝えることができるかどうかとても不安で、また、自分がテーマとしているイスラーム金融研究(より正確にはイスラーム経済研究)は日本ではまだまだマイナーな存在であるため、本セミナーで発表することがふさわしいのかどうか正直迷っていました。そんな中で、たまたま応募締切直前に開かれたオリエント学会の年次大会の自分の発表で、本セミナーのスタッフである飯塚先生に司会をしていただいたことがきっかけとなり(というか、これで自分の研究を事前に知ってくださった方が一人いると勝手に思いこんで)、晴れてセミナーに応募することになりました。
本セミナーがいかに濃い内容に満ちていて自分の研究内容のブラッシュアップに役に立ったかは、これまでの受講者の皆さんが十分すぎるほど書いてくださっており、私がここでそれを繰り返しても「茶番」を演じるだけなので、以下では、セミナー参加後の自らの反省(それはすなわち収穫)点を記すことで、今後の受講者の皆さんの参考に少しでもなればと思います。
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(反省点1)自分の発表準備に拘泥しすぎるあまり、異分野交流が不十分であったこと
本セミナーに応募し参加が許可されると、各受講者の発表要旨が参考文献とともに送られてきます。これは、受講者どうしが事前にお互いの研究を把握し、当日の議論が円滑に進むようにとの配慮から行われていることですが、私自身は、他の受講者が示した参考文献を事前に読んできたものの、自分の発表準備に拘泥しすぎるあまり(そして、発表後は安堵感に浸りすぎるあまり)、他の受講者の発表とその後の討論に積極的に参加できませんでした。たしかに、本セミナーはスタッフの先生方と受講者の間の知的真剣一本勝負であり、不用意な発言はできないという張り詰めた空気が流れているのですが、今後ますます学際的な研究が推奨されていく昨今の研究をめぐる環境を考えるならば、まだ失敗をしてもある程度は許される本セミナーのような場において、恥をかくことを承知で単にテクニカルな質問をするだけでなく、研究内容に踏み込んだ発言をもっとすべきであったと思っています。このことに関連して、今後の本セミナーにおいて、各受講者に他の受講者のコメンテーターを強制的に割り当てることで異分野へのコメント力を養うような試みを取り入れたらよいのではないかと思いました。
(反省点2)与えられた時間の中で自分の研究の要諦をわかりやすく伝えきれなかったこと
本セミナーで各受講者に与えられた発表時間は1時間で、その与えられた時間内で自分の博士論文の研究意図・内容・想定される結論を伝えることが求められています。私も準備の段階では、そのことを踏まえて発表レジュメを作成したのですが、出来上がったレジュメに比して発表時間があまりにも足りない(そしてレジュメを短縮することができない)と感じたため、本番では時間内に収めようとかなりの早口で発表をしてしまいました(結果、5分オーバー)。そのため、振り返ってみれば自分の研究のエッセンスが必ずしも十分に伝えきれなかったように思います。学会発表や研究会では発表内容が洗練されていることはもちろんのこと、発表時間をきちんと守り、かつ時間内に発表の要諦を伝えきることが常に要請されており、本セミナーはそのための訓練の場でもあったのだと私は強く感じました。このことは本セミナーでの自分の発表が終わったときに気づいたことで、私にとっては時すでに遅しなのですが、今後の本セミナーにおいて(あるいは、これは教育セミナーで取り入れた方がよいことかもしれませんが)、異なる制限時間(例えば、15分と1時間とか)の下で同じ内容の発表をいかに伝えきるかという訓練の場(つまり、同じ内容の発表を異なる制限時間ごとに繰り返す)を設けるとより受講者の発表技術の向上につながるのではないかと思いました。
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このような実りある収穫を得られたのも、多忙な中、昼夜を問わず議論につきあってくださったスタッフの先生方・研究員の皆さんや周到な準備をしてくださった大屋さんをはじめとする事務局の皆さんあってことだと思っています。我々受講者はセミナー期間中に嵐のように来て去っていくだけですが、受け入れ側の皆さんの準備段階からの細やかなご配慮に改めて御礼申し上げたいと思います(これは茶番ではありません。念のため。)。最後に、個人的なことですが、以前、アルバイトで6年間通い、現在の研究を志すきっかけを作ってくれた思い出深い武蔵境駅前に一週間ほど滞在したことで、改めて自分を見つめ直すよい機会ができたと思っています。