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研究セミナー >> 2006年度感想・報告 >> 小笠原弘幸
2006(平成18)年度 前期
小笠原弘幸(日本学術振興会特別研究員(PD))
 7月24日から27日まで開かれた中東・イスラーム研究セミナーは非常に有意義なものであった。特に、自分の専門と異なるディシプリンの方々と交流することは、普段なかなか経験することがないだけに、大きな刺激となった。実際、参加者の8人中5人までがフィールド系研究者であり、また、前近代の歴史を研究する筆者を除く7人すべてが、現代を研究していた。こうした参加者の専門分布は、ウェブサイトでの情報を見る限り、当セミナーでは常態のようである。しかし、筆者は日本におけるイスラーム研究者には歴史を専攻する者が多いというイメージを持っていたため、驚きを感じるとともに、現在の日本における中東研究の潮流が変化しつつあるのかもしれない、との印象を持った。

受講者の発表の中で、まず興味を引かれたのは宮澤栄司氏の「トルコのチェルケス人奴隷子孫にみる実践的記憶:支配的言説からの解放」である。筆者はトルコ共和国に留学経験を持つが、宮澤氏の発表にあるようなチェルケス人の問題については殆ど無知であったため、本発表によってこうした問題に触れることが出来たのは大きな収穫であった。また、イスラエルにおける歴史研究を研究対象とした金城美幸氏の発表も、筆者が史学史を専攻することもあって興味深いものであった。近代国家における歴史叙述のあり方についての研究は昨今よくみられるものであるが、そのなかでイスラエルというある種特殊な国家における歴史の語りを研究対象とすることは、大きな可能性を含んでいるのではないかという印象を持った。

  研究発表後の質疑では、人類学系の受講者たちが共通のタームや分析概念を用いて議論を展開しているのが印象に残った。筆者が専攻する歴史学では、自前の分析概念を基本的に持たないため、地域や時代を異にする場合に共通理解の空間が作られにくいという難点がある。細分化された現在の歴史学界の状況を鑑みると致し方ないことでもあるのだが、人類学研究者の闊達なやりとりは歴史研究者として羨望を禁じえなかった。

  また、特別プログラムである堀井聡江氏による「留学と博士論文」は大変参考になる内容であった。この内容は、留学経験者が多い研究セミナー参加者のみならず、これから留学を志す者が多いであろう教育セミナーにおいても有益ではないだろうか。同じく参加者以外が発表するプログラムとして、マスウード・ダーヘル氏の講演は、現在のレバノンの情勢を知る上でまたとない機会であった。パレスチナ問題を含め、現代研究を専攻する者の多い受講者との熱の入った質疑応答も聞き応えのあるものであった。

  こっそり付け加えておきたいのだが、最も有用であったのは、実は懇親会における交流であったかもしれない。公式のみならず、非公式の懇親会も含めると毎晩歓談の場が開かれており、そこでの意見の交換は本来のセミナーよりも時に参考になること大であった。聞くところに寄ると、毎晩懇親会が開かれるというのは既にセミナーの伝統になりつつあるとのこと。今後も、ぜひこの伝統を継続して頂きたいものである。
 

 

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