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研究セミナー >> 2005年度感想・報告 >> 外山健二
2005(平成17)年度 後期
外山健二(筑波大学大学院博士課程人文社会科学研究科)
 わたしは、研究セミナー(4日間)を受講し、学会や研究会などにおける発表方法とそれを受けた質疑応答や研究者としての基本姿勢を学び、また、それらを通して、知的・人的交流、いわば、研究における人脈の大切さを認識した。

  以下、簡単であるが、このセミナーに対する感想と評価を報告する。

  まず、研究者養成という目的が受講者に伝わるセミナーであったことである。大塚和夫先生を初め6名の担当教員が研究者としての資質を、受講者7名に対し、セミナーを通して教授されたことをあげなくてはいけない。この「教授」がセミナーの魅力であり、若手研究者は、それにより大きな動機や刺激を受けたと思われる。

  では、この教授から考えたことや得たことは何であったのか。これらに答えることで、セミナーの感想・評価としたい。初日(12月19日)には、研究会「ムスリムの生活世界とその変容」においては、イスラーム化が生じるローカルなコンテクストとして、ケニアのカウマ社会に生きる農耕民ミジケンダとマレーシアの先住少数民族であるオラン・アスリの二つの事例が報告された。二日目以降では、各受講者の研究発表が行われた。なかでも、菊田悠氏(東京大学大学院)「ピール崇敬の論理と位置づけ―ウズベキスタンの事例から」では、ウズベキスタンのイスラームの事例として、フェルガナ地方を舞台とするピール(pir)という聖者に関する行為と観念が報告され、辻上奈美江氏(神戸大学大学院)「市民社会、民主主義へ向かうサウジアラビア:女性アクティヴィズムの考察から」では、サウジアラビアにおける市民社会の事例として、女性アクティビストの諸活動とそれを支える社会構造などが報告された。

  以上、注目すべきは、各発表者が現地調査を行い、その調査に基づく報告を基調としている点であり、ローカルなコンテクストにおけるイスラーム化が報告された事例研究であることである。その研究は、先行研究を踏まえつつ、既存の文献に依存する研究報告に埋没することなく、現地社会における参与観察調査とそれに基づく経験によってなされるエスノグラフィーが意識されている。

 あえて以上の点を強調するのは、G.C.スピヴァックが『ある学問の死』のなかで、比較文学研究でもって地域研究を(ならびに歴史学、人類学を)補完することを主張したことが思い出されるからである。スピヴァックはその著書のなかで、地域研究が冷戦時代にアメリカの支配力確保のために生まれたことと、比較文学がヨーロッパ知識人による「全体主義」体制からの逃走の結果生まれたことを考慮しつつ、地域研究と比較文学の連動は不可欠と主張したのである。

 このセミナーを契機に、「地域」という言葉からは、英語圏に加え、アラブ・イスラーム圏が不可欠となった。こう考えると、地域研究を補完する比較文学は、「ネイティブ・インフォーマント(現地人の情報提供者)」が主体となる言語を基礎に置くエクリチュールを視野に入れることが必要となるだろうか。ローカルという言葉から連想される「細部への目配り」を意識しつつ、その意識は、メトロポリス(中心)の言語が脱却した、アラブ・イスラーム圏を含む地域を志向することになるだろう。文学研究が文献依存型の研究から脱却する契機を探るとすれば、その文学研究は、ローカルに注目した結果報告されるペリフェリー(周辺)に関するエスノグラフィーを忘却することはできず、地域研究との連動は不可避となるだろう。

  最後になるが、大塚先生を初め諸先生方、事務の村上氏にはお世話になり、感謝の意を申し上げたい。研究者としての基本的な資質養成を目的とする充実したセミナーに参加させていただき、ありがとうございました。
 

 

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