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研究セミナー >> 2005年度感想・報告 >> 菅瀬晶子
2005(平成17)年度 前期
菅瀬晶子(総合研究大学院大学文化科学研究科)
 中東、あるいはイスラーム世界をフィールドとする大学院生の悩みは、なによりもまず、「同じ土俵で議論をする機会が、極端に少ない」ということである。多くの院生は国際関係論、人類学、歴史学などを専攻とする研究科に属し、そこに中東・イスラーム世界を対象として研究をおこなう院生が、自分の他にひとりいるかいないか、というありさまである。このような状況下では必然的に、ゼミのたびに当該地域の解説、イスラームの慣習の解説からはじめざるを得なくなり、それはそれで将来のための勉強にはなるのであるが、歯がゆいことこのうえない。自分の研究の本題についての突っ込んだ議論に入る前に、時間切れを迎えてしまうおそれもあるのだ。

 調査の過程で得た情報をまとめあげ、相対化するのは非常に重要なことである。しかしながら、論文をまとめる上では、細部の調整も同じくらい重要なのである。指導教官からマンツーマン指導を受けても、まだすこし足りない。学会発表の場にそれを求めるには、時間的な制約があり過ぎる。自分の書き進めてきたことを、「話の分かる」人たち、それもある程度の人数に、ゼミという形式できいてもらいたい。できればこれまで自分の話をきいたことのない人たちであれば、言うことはない。……そんなことを考えて、日々悶々としていたときに、このセミナーの開催を知った。即、応募である。これを僥倖と言わずして、なんとしよう。

 日本、どころか世界(?)各地から集まった院生は、自分を含めて7人。ちょうどいい。地域も研究テーマもほどよく分散していて、どれも興味をひかれる。研究の進み具合には個人差があったが、初心に立ち返るには格好の機会であった。自分の研究テーマにのみ長期間向き合ってきたために、視野が狭くなっていたことをあらためて痛感し、自省することができたのは、論文執筆も終盤にさしかかった身にはたいへんありがたかった。発表に一時間、討論に一時間強という時間配分も、ころあいである。それ以上では議論が広がりすぎ、それ以下ではもの足りない。そして、忘れてはならないのは、教授陣の豪華さである。中東・イスラーム研究の第一線で活躍する研究者から得た助言は、どれもまさに、自分が訊きたいと思っていたことばかりであった。これまでにない充実感を得て、4日間の日程を終えることができた。自分と同じ悩みを抱えながら奮闘する院生たちと、休憩時間に腹を割った話ができたことも、非常に貴重な体験であったことはいうまでもない。論文執筆の苦しみは、自分で飲み下さねばならないが、苦しみを共有することはできるのである。

 本来であれば、この感想・評価文は博士論文の執筆を終えた後に提出するほうが、より力強いものになったのであろう。いろいろと褒めちぎっているようであるが、すべて真実である。博士論文執筆中、あるいは執筆のための調査に向かう直前の人たちにも、ぜひこのセミナーへの参加をお勧めする。得るものは、思っていた以上に大きく豊かであるはずだ。
 

 

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