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クレオール的コミュニケーションとエドゥアール・グリッサンの言語をめぐる著述
La communication creole et les ecrits d’Edouard Glissant a propos de la langue

中村隆之 (神奈川工科大学非常勤講師)
Takayuki NAKAMURA, Lecturer, Kanagawa Institute of Technology

本報告「クレオール的コミュニケーションとエドゥアール・グリッサンの言語をめぐる著述」(題名変更)は、多文化研究を主題とした第三セッションで行なわれた。発表言語は仏語である。司会は黒木英充氏、コメンテーターはJale Parla(イスタンブル ビルギ大学教授)とAyhan Kaya(同大学教授)の両氏である。

本報告は、クレオール的コミュニケーションと報告者が呼ぶところのコミュニケーション観の可能性を、仏語圏カリブの現代作家エドゥアール・グリッサンの言語をめぐるテキスト「自然の詩学、強制の詩学」(『アンティーユ論』所収)を素材に模索することを目的としている。

一般にコミュニケーションは、同一のコードを共有する話者間でなされる、「意味」の相互伝達行為として解される。そしてこのコードは、基本的にあらゆる言語に共通するとされる。諸言語間の翻訳行為(コミュニケーション)が成り立つのは、このコードの普遍性が前提とされている。しかし、諸言語間の共通コードという発想は、それ自体、一個の虚構ではないか。

 

グリッサンのテキストは、この通念を、仏語圏カリブ海の現地語であるクレオール語をめぐる鋭利な考察をとおして、間接的に問い直している。クレオール語は、意味の伝達よりもその迂回に特徴づけられ、根本的に口承的性質を有している。このクレオール語の特質は、コードの普遍性を共有する諸言語と比する場合、否定的に見えるが、しかし、その否定性にこそ共通コードに還元しえない不透明な関係として言語を捉えなおす可能性があるとグリッサンは考える。クレオール的コミュニケーションの発想は、グローバル化の時代において、共通コードをもたない者同士のコミュニケーションの可能性を示唆するものであり、さらには、同一言語内における理解可能性という虚構をも問い直すものである。

上記の報告にたいするParla氏およびKaya氏のコメントはきわめて好意的だった。Parla氏からは、報告者の意図に沿ういくつかの質問を頂いた。またKaya氏からは、事前に準備した原稿に基づいた、きわめて示唆的なコメントを頂いた。とくにポール・ギルロイの『ブラック・アトランティック』への言及や、ご自身の研究の一つであるドイツにおけるトルコの移民労働者におけるコミュニケーションの問題への言及からは、得るものが大きかった。今後の展開につなげたい。

なおこの報告原稿は、クレオール語およびクレオール文化研究のためのウェブサイト、Kapes Kreyolに掲載されている。
http://www.palli.ch/~kapeskreyol/atelier/glissant2.php

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