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中東研究日本センター(JaCMES)における研究活動
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"Inter-Party Competition and Quasi-Institutionalized Party System in the Middle Eastern Monarchies: The Case of Kuwait"


Hirotake Ishiguro (Ph. D. Candidate, Kobe University)
石黒 大岳(神戸大学大学院国際文化学研究科博士後期課程)

報告内容

 本報告は、権威主義体制あるいは自由化された専制という体制分類のもとに分析が進められている近年の中東政治研究に対し、君主国での民主化過程における議会政治の発展について、理論的な枠組みからの検討を試みたものである。そのための方法として、君主国では比較的競争的な議会選挙が実施されて、多党システムが形成されている点に着目し、クウェートを事例に政党間の競合構造という観点から、政党システムの擬似的な制度化という新たな分析概念を導入した。
 クウェートでは、1992年の議会復活以降、競合的な選挙が実施されており、野党が多数派を形成し、政府に対する議会の異議申し立ての権能も強い。政党の結成が公式には認められておらず、政党内閣制は実現していないが、1999年議会から2006年議会にかけて、議員は政治的志向の違いによって会派(bloc/kutlah)を結成し、実質的な議会政党として機能させてきた。また、会派間では、法案審議や組閣あるいは選挙において、協力あるいは対立する相互関係が成立していたことが確認された。
 政党システムの擬似的な制度化という分析枠組みは、元来は民主化後の旧共産圏の政党システムを対象とした分析概念であるが、@政党間競合の安定性やA政党の組織化の程度およびB社会とのリンケージの安定性の高さを評価の基準とし、経年にともなう制度化の程度の変化を捉えようとするものである。クウェートに関しては、上述の会派を、その特性から分析上の政党と位置づけると、1999年、2003年、2006年の各選挙データの分析結果において、いずれの指標とも比較的高い程度で安定しており、政党間競合の構造から政党システムの擬似的な制度化が確認できると評価した。

報告に関するコメントと議論

 本報告に対して、ベイルート・アメリカン大学のヒラール・ハシャーン教授よりコメントを頂いた。コメントおよび議論の内容は、君主国を対象とした比較の枠組み設定の問題と、擬似的な制度化の評価基準の妥当性の問題に関するものに整理されよう。
 前者の問題に関しては、時間と紙幅の制約から省略したとはいえ、クウェート独自の歴史的・社会的な背景や、首長と議会との関係、湾岸戦争のインパクトなどへの言及が不足しているとの指摘や、クウェートと他の君主国との間の選挙の競合性や政治活動の自由度の差異が大きいため、政党システムの制度化という枠組みでの比較ではなく、政党の活動そのものの比較において、クウェートでは政党システムが擬似的に制度化しているという論じ方が適切ではないか、との助言を頂いた。後者の問題に関しては、政党システムの擬似的な制度化の3つの基準のうち、リンケージの安定性については、政治的な分断化(political segmentation)との関連から再検討が必要との指摘を頂いた。具体的で貴重なコメントを多数頂き、報告者が抱えている、政治学における理論的な枠組みで中東政治を切り取ることの難しさに理解を示された上で、投稿のためのリライトを前提としたコメントを下さり、大変励みになった。

 本報告会および今回の滞在における多くの研究者との交流は、非常に有意義で、今後の研究活動への大きな励みとなった。黒木先生をはじめ、JaCMESおよび中東イスラーム教育研究プロジェクト関係者の皆様には、本報告の機会を下さったことに、心から深く感謝申し上げます。

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