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中東研究日本センター(JaCMES)における研究活動
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"Mother, Wife, and Daughter in Law of Fath ‘Ali Khan Donboli: A Study in Probate Inventories of a Local Notable in Nineteenth-Century Iran"


Naofumi Abe (Research Fellow, The University of Tokyo)
阿部 尚史(東京大学特任研究員)

報告内容

 本セミナーにおいて、報告者は、19世紀イランのムスリム女性による婚資や相続取分の取得と、家産の維持存続がもつ関係を考えるべく、事例研究として、アゼルバイジャン地方の有力者、ファトフアリー・ハーン・ドンボリーの母、妻、嫁の行動に関する研究報告を行った。

 中東研究の中で、女性研究は盛んな分野で、その中には、歴史学的な研究も数多く見られる。一方、20世紀初頭の立憲革命以前のイランを対象とした、特に財産と女性を考察した研究は少ない。報告者は、アラブ女性史研究を参考にしつつ、イランの有力者家族と女性をめぐる考察を試みた。

 本報告では、まず、ファトフアリー・ハーンの遺産目録を紹介し、彼の債務に占める女性の取分の多さを指摘した。ここで特に注目すべきは、婚資mahrが多く含まれることである。そこで、婚姻契約時に支払われると思われる婚資が、長年支払われずに、故人の債務として計上されることの意味を考えるため、19世紀イランの法学書とシャリーア文書台帳にあたり、19世紀イランの婚資支払いの慣習や法的な裏付けを検証した。当時のシーア派法学において、婚資の支払いは婚姻締結時に限られることはなく、また実際に、70パーセント以上の新郎が婚姻締結時に僅かに一部を支払うほか、その大部分の婚資を支払わずにいたことを指摘した。その上で、再度ファトフアリー・ハーンの事例に戻り、故人の母が、息子の死去に際し婚資計上した理由として、財産流出を最低限に抑えるための行為であったと論じた。ここから、女性と家族の関係を考える際に、対立的な見方ばかりでなく、家産の維持という視点から女性の行動を捉える重要性を指摘した。

報告に関する議論など

 本報告に対するコメンテーターとして、オスマン朝期のアレッポの都市史を研究するシュテファン・クノスト氏(Orient Institut Beirut)が出席してくださった。報告者も、クノスト氏が日本で行ったシャリーア法廷台帳を駆使した、優れた報告を何度か(少なくとも二度以上)拝聴したことがある。クノスト氏からは、個々の論点に関する問題点、オスマン朝との比較に留まらず、法廷史料の持つ特徴や研究の進め方まで視野に入れた、叱咤激励のコメントを頂けたことに大変感謝している。残念ながら、全てのご指摘について、十二分に応答することはできなかったが、今後の研究の中で可能な限り答えを出していきたいと考えている。

 イラン地域を対象とした研究では、家族や相続を巡る問題を研究する「同好の士」が少ない一方で、お隣のアラブやトルコにはかなりの研究蓄積があり、こうした研究をどのように利用し、また隣接地域の研究者といかに学術的な交流をはかるか、という点が、報告者にとって喫緊の課題である。こうした観点からも、クノスト氏との学術的交流は貴重な機会であった。

 報告以外においても、今回の滞在は、大変刺激的で有意義であり、僅かな紙幅で語りつくせるものではない。最後に、この機会を用意し、セミナーその他の運営を担当なさった、黒木英充先生をはじめとするスタッフの方々のご尽力と情熱に、改めて敬意と謝意を申し上げます。

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