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中東研究日本センター(JaCMES)における研究活動
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"A Study of the Abbasid Court Musicians Recorded in al-Aghani"


Sayaka Nakano (Ph.D. Candidate, The University of Tokyo)
中野 さやか(東京大学大学院人文社会系研究科博士課程)

報告の概要

 本報告では、アル・イスファハーニーの『アル・アガーニー』に記されている正統カリフ時代からアッバース朝までの歌手の師弟関係の系譜を分析した。アガーニーは、10世紀にアッバース朝の宮廷音楽を紹介する為に記された詩人と歌手の伝記集であり、アッバース朝宮廷生活を分析する上で必要不可欠な史料である。本報告では、歌手の師弟関係を分析することにより、イスファハーニーが、どのような観点から、歌手達の情報を取捨選択したのかを明らかにすることを目指した。アガーニーの師弟関係の情報を整理すると、正統カリフ時代のメディナの奴隷やマワーリー→ウマイヤ朝宮廷のナディームとジャーリヤ→アッバース朝宮廷のナディーム、ジャーリヤを母親とするアッバース家成員へと、音楽が伝授された経緯を描きだせた。発表者はこの師弟関係の系譜が記された要因として、第一には、9世紀の最も著名な宮廷歌手であるイスハーク・アル・マウシリーの師匠達が重点的に選ばれた為であることを指摘した。イスハークは、9世紀前半に歴代のカリフにナディームとして仕え、他のナディーム達の教師でもあった。彼の教え子達は、イスファハーニーの情報提供者となっており、このイスハークの影響力によって、彼の師匠筋の歌手達が選ばれたことが指摘できる。第二には、これらの歌手達の系譜は、メディナからアッバース朝宮廷へ至るまでに、ウマイヤ朝宮廷を経由していることが挙げられる。イスファハーニーは、ウマイヤ家出身であった為、これらの歌手達がウマイヤ朝宮廷歌手達の師匠や弟子達であったことが、伝記を書き記した要因であったと指摘した。最後に著者イスファハーニーのバイアスが、アガーニーの歌手情報から読み取れることを論じて、報告を終えた。

報告後の議論の概要

 コメンテーターは昨年と同じく、ステファン・レーダー氏にお願いした。アガーニーの歌手の師弟関係の記述に特化した本報告に対して、氏からは、音楽の発展や社会における役割を論じる必要性など、より多角的な視野で研究を進めるようにとの助言を頂いた。その後のランチタイムでは、「音楽や詩学などの文芸そのものの発展」ではなく、「宮廷文化を発展させたナディーム」自体に力点を置いていると報告者が説明したところ、氏から、師弟関係は宮廷へ招聘される為の手段であった可能性や個々の歌手の才能によってその関係性が異なることを指摘され、歌手となったナディームを研究する上で必要な視点を御教授頂いた。

報告会参加の感想

 質疑応答やその後のランチタイムでは、議論というよりはレーダー氏から講義を受けるという感じになってしまい、第一に調査不足、次にナディームとなった多様な文人達を研究テーマとする上でより焦点を絞り込む必要を感じた。博論に向けて必要な諸点を再確認出来たという点で、得るところが大変大きかったと思う。去年に続いて今回も貴重な機会を与えて頂いた黒木先生とAA研の皆さまには深くお礼を申し上げます。

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