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中東研究日本センター(JaCMES)における研究活動
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"Nationalisms and national integration of Christians in Egypt and Syria"


Hiroko Miyokawa (Post Doctoral Researcher, Sophia University)
三代川寛子(上智大学グローバル・スタディーズ研究科地域研究専攻)

 今回の研究発表は、「Christians in Egypt and Syria: Nationalisms and National Integration」と題するもので、19世紀末から20世紀前半のエジプトとシリアにおけるナショナリズム運動とそれに対するキリスト教徒の反応を比較し、考察を加えた。

 この時期、エジプトおよび大シリアにおいて、複数のネイション概念が構想され、それぞれに基づいたナショナリズム運動が発生した。例えばエジプトでは、ナイル川渓谷を祖国とし、その祖国への帰属意識を持つ人々をエジプト人と規定するエジプト・ナショナリズム、アラビア語を母語としアラブの文化を共有する人々をアラブ人と規定するアラブ・ナショナリズム、ムスリムとしての帰属意識を強調し、イスラーム共同体の再興を目指すパン・イスラーム主義などが、大シリアにおいては、主要なものだけでもレバノン・ナショナリズム、シリア主義、アラブ・ナショナリズムなどが唱えられた。

 このうち、アラブ・ナショナリズムに関しては、イスラーム的要素がアラブ性の一部を成すと見なす傾向があったことから、キリスト教徒、特にエジプトのコプト正教徒およびレバノンのマロン派キリスト教徒たちを取り込むのにはあまり有効ではなかった。コプトおよびマロン派キリスト教徒は、それぞれエジプト、レバノンという国民国家の領域内にその地理的分布が収まっており、世俗的ナショナリズムを支持し、古代文明に自らの出自を結びつける傾向があったため、それぞれエジプト・ナショナリズム、レバノン・ナショナリズムを支持する傾向があった。一方で、大シリアにおけるギリシャ正教徒は、シリアやヨルダンというような特定の国民国家の領域内に集住しておらず大シリア全体に分布していること、19世紀末にギリシャ人聖職者とアラブ人平信徒の間の対立を経験したこと、そして20世紀前半以降はシオニズム運動に対抗する必要が生じたことから、アラブ・ナショナリズムを支持する傾向があった。

 エジプトのコプトの国民統合問題を主要な研究テーマとしている私にとって、歴史的背景や宗教・宗派別の人口構成が大きく異なる大シリアとエジプトの概況を比較することは新鮮だったが、コメンテーターを務めていただいたマスウード・ダーヘル氏のご指摘どおり、両地域のキリスト教徒の宗教的帰属意識と政治意識を単純化した表面的な比較ではなく、ナショナリズム運動の政治的側面、あるいはナショナリズムの思想的側面など、ある一点に焦点を絞って比較検討した方が有意義であったと思う。また、当時大シリアから多くのキリスト教徒知識人がエジプトに移住し、ナショナリズム思想を広めたことに関する言及がないことも指摘された。これらのコメントを参考に、今後ともエジプトのコプトの事例のみに集中するのではなく、他の中東のキリスト教徒の事例との比較、あるいは相互に与えた影響といった視点を持ちつつ研究を進めていきたい。

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